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ブラジルの神、最期はUber…

BRASIL by João Gilberto

今月、また一人ポピュラー音楽の至宝が鬼籍に入られた[1]。その人は「ボサノヴァの法王」とか「ボサノヴァの神」と称されたジョアン・ジルベルト(João Gilberto)。享年88歳。親父と同世代だ。小学生の時、彼の元妻歌うボサノヴァの名曲≪イパネマの娘≫を聴いて以来、ブラジル音楽が大好きになった。彼のアルバムは何枚も持っているが、訃報を聞いてから車中で流しているのが「海の奇蹟(BRASIL)」という超名盤。ジョアンを神と崇めるカエターノ・ヴェローゾとジルベルト・ジルとのスーパー・ジョイントが聴ける一枚だ。

海の奇蹟(BRASIL)LP盤オリジナルジャケット
LP盤オリジナルジャケット

私の持っているのは初めてCD化されたブラジル感強めのジャケットだが、オリジナルのLP盤はかなり渋めだ。この中で特にお気に入りなのが1曲目の≪サンバ・ブラジル(AQUARELLA DO BRASIL)≫。このアルバムを聴く前は、ジョアンといえば耳元で囁くようなアンニュイな曲のイメージがあったけれど、こんな陽気なサンバも歌えるのね(といってもやっぱり控えめな印象だけど)と彼のイメージが覆った一曲。和訳すれば「ブラジルの水彩画」[2]というこの曲はアリー・バローゾという人の作品。高場将美氏のライナーノーツによれば、このサンバは曲が魅力的すぎてコマーシャリズムに乗ってしまった結果、ブラジルでは安っぽいサンバの代名詞になった曲なのだとか。でもジョアンのそれはブラジル音楽史上に残る名録音だと。

田舎の商店街で“サンバ祭り”のBGMとかに流れていそうな「ブラジルの水彩画」


ジョアンの手にかかるとこんなにも洗練された“水彩画”になる


ジョアンといえば、当時在住していたアメリカで大成功したアルバム≪ゲッツ/ジルベルト(GETZ/ GILBERTO)≫(スタン・ゲッツはもちろん、あのアントニオ・カルロス・ジョビンがピアノで、元奥方もヴォーカルで参加する超豪華盤)に代表されるようにジャズ界にも多大な影響を与えたが、彼の音楽はボサノヴァというジャンルに囚われず、ジャズやサンバにと広い意味でブラジル音楽を大衆化させた立役者だ。先の高場氏曰く、「このアルバムがジョアンの“ブラジル”であり、これを否定するものは、ブラジルを理解できない人、ジョアン・ジルベルトは、生きているブラジルの神なのだ」と讃えている。

不朽の名作


そんな高場氏が最悪なポルトガル語文章と酷評する(笑)≪サンバ・ブラジル≫の歌詞は、

Brasil,
meu Brasil Brasileiro
Mulato inzoneiro
Vou cantar-te nos meus versos
Brasil, samba que dá
Bamboleio, que faz gingar
Ô Brasil do meu amor
Terra de Nosso Senhor

ブラジル
ブラジル人のわがブラジル
混血の同胞の国
おまえにわたしの詩をうたおう
ブラジル、サンバからわき出る
からだを揺する楽しさ
わが愛のブラジル
われらの主の土地
(訳詞:高場将美)

と確かにかなりベタな表現になっているが、天皇=男系継承や純血主義に拘る日本と、混血の国ブラジルとのあまりにも違い過ぎる国の成り立ちがこの詞を見ただけでもよくわかる。どっちが良い悪いという話ではないが、地理的に地球の裏側にある両国は、音楽という文化の点でも対極に位置するようだ。

ベスト盤ならこれかな


彼の訃報を予知していたかのように、『ジョアン・ジルベルトを探して』というドキュメンタリー映画が8月24日から公開されるという[3](クイーン&クラプトンエヴァンスとくれば、この映画の鑑賞MUSTやね)。2008年夏のボサノヴァ50周年記念コンサートを最後に公の場から姿を消したジョアン・ジルベルトの行方を探すドイツ人ジャーナリスト、マーク・フィッシャーの著書が下地になっている。マーク・フィッシャーは、ジルベルトに会えないまま同書が出版される1週間前に自殺するという、とても悲しい顛末なのだが、リオの自宅で亡くなったジョアンは、ほとんど外出をせず自宅マンションで隠遁生活を送っていたらしい。2018年に、裁判所から長年暮らしていたレブロンのマンションの家賃を滞納していたことから立ち退き命令が出され住居を移したり、ヘルニアなどの病気を抱え療養生活を送っていたとのことで、神様も晩年の生活は恵まれていなかったようだ[1]。



他界する数日前にはレストランで食事をしていたことが報じられているが、一人で歩けないジョアンは自宅マンションからレストランまでウーバー(※)を利用したそうで[1]、今どきなライフスタイルなのかもしれないけれど、世界の音楽に多大な影響を与えたスーパースターの最後の足がウーバーとは、ちょっと淋しい気もする。

※ー般のドライバーが空き時間と自家用車を使って行う割安タクシーといった配車サービス(アプリ)、もしくはこのようなライドシェアサービスのパイオニアであり、世界覇権を目論む米国企業、ウーバー・テクノロジー社のこと[4]。

R.I.P./João Gilberto




[参考・引用]
[1]ボサノヴァの創始者のひとり、ジョアン・ジルベルトが他界、MEGA・BRASIL、2019年7月7日、
https://megabrasil.jp/20190707_46261/
[2]Aquarela do Brasil ブラジルの水彩画、memorandum、2014年9月15日、
http://noriko-yamamoto.cocolog-nifty.com/memo/2014/09/aquarela-do-bra.html
[3]映画『ジョアン・ジルベルトを探して』 全国ロードショー決定、ARBAN、2019年6月10日、
https://www.arban-mag.com/article/37865
[4]UberやLyftなど世界で急拡大中のライドシェア。なぜ日本では広まらないのか?その原因はこんな法律にあった。-弁護士岡本杏莉のシェアにまつわる法律相談所、岡本杏莉、Share!SHARE!SHARE!、2015年11月20日、
https://share.jp/column/sharingeconomy_law/rideshare/
[5]domingo music for Sunday lovers、堀内隆志・ケペル木村・小山雅徳、プチグラパブリッシング、2006年
[6]Musica LocoMundoブラジリアン・ミュージック・ディスク・ガイド、アスペクト、2001年
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[ 2019/07/19 00:23 ] music/音楽 | TB(0) | CM(0)

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