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うちのおじいちゃん

うちのおじいちゃん

本日紹介する『うちのおじいちゃん』(谷口國博・文、村上康成・絵、世界文化社)は、昔本屋で見つけて―児童書の新刊本コーナーに並んでいたから2006年くらいかな―当時、イラストの村上康成さんにも興味があったので気になったクルマ絵本なのだけれど、何故か買い損ねていた。今回一連の高齢者事故のニュースでふと思い出して入手したんだ。当時はまだ高齢ドライバーによる事故が今ほど問題になっていなかったと記憶しているが、そもそも交通事故死者数は年々減少しているのに、高齢ドライバーの比率は増加しているので、相対的に高齢者が引き起こす重大事故は目立つことになる[1]。

原付以上運転者(第1 当事者)の年齢群別死亡事故件数の推移(免許保有者10 万当たり)
図1.原付以上運転者(第1 当事者)の年齢群別死亡事故件数の推移(免許保有者10 万当たり)[2]

交通事故統計によれば、死亡事故を起こした第一当事者、つまり事故に関与した車両の運転者や歩行者のうち過失が重い者を年齢群別事故件数で調べてみると、その年齢群の免許保有者10万人当たりの75歳以上(後期高齢者)の事故件数が、75歳未満の事故件数の2倍以上となっている。もちろん免許取り立ての若年層(16~24歳)の事故率も高いのだが、特に85歳以上の加害事故件数は突出している(図1)[1][2]。高齢ドライバーが引き起こす大きな事故が毎日のようにニュースになるが、データを見る限り意図的に取り上げられているということでもなさそうだ。

4月の渋谷の事故で、加害老人(当時87歳)の名前と経歴が公表されたとき、はてどこかで見覚えがと思った。80年代後半、民間会社に入社したての私は通産省工業技術院(現・経産省産業技術総合研究所)がスポンサーの研究プロジェクトに参加していたことがある。それが縁で関連団体への出向も経験したのだけど、その時の研究委託契約書の代表者がその名前だったことをかすかに記憶に留めていたのだ。当時、工業技術院の研究者、OB/OGにはずいぶんとお世話になったが、彼らのトップがこんなことになろうとは。

福岡高齢者事故
よく通る交差点だったからなあ・・・
出典:朝日新聞DIGITAL

6月に福岡で発生した高齢者事故も衝撃的だった(当事者は当時81歳)。ニュース動画を見たときはカーアクション映画ではないかと思ったくらいだ。現場となったエリアも帰省中しょっちゅう行き来をしていた場所で、近くには塾もあって歩行者の横断もかなり多い交差点だったから、時間帯や信号が違っていたらさらに悲惨な事故になっていたかもしれないし、自分も巻き込まれていたかもしれないと思うとゾッとする。先の出向先では、20年以上も前に身体機能が著しく低下する高齢者向け製品開発や公共施設の設計指針に役立てるための基盤作りの仕事をしていた。そりゃあ国の大きな戦略の中のちっぽけな1ピースには過ぎなかったけれど、これだけ高齢者絡みの悲劇が続くと、自分の関った研究がもっと役に立てなかったのかと無力さを感じる。

私の父も80代前半までは運転を続けていた。それまでは亡くなった母とよくドライブをしていたが、母が病気を患ってからは遠出も少なくなったが、病院や買い物、そして自身の実家・山口への墓参りにもクルマは欠かせなかった。独り暮らしになって、夜間の運転は怖いから止めたとは言っていたが、ちょくちょく道路の縁石に当てたりこすったりするようになったと聞いて免許返納を促した。最初は笑って聞き流していたが、何回かアドバイスをしているうちに5、6年前だっただろうか、意外にすんなりと返納し、愛車も手放した。運転歴は約半世紀、一抹の寂しさも吐露していたが、今考えればこの判断は正しかったと思っている。しかし、この頃から急速に父の身体機能の低下が進んだように思う。

うちのおじいちゃん03

実際に車の運転をやめた高齢者は、抑うつ症状になったり、急激に身体能力が衰えたりするリスクが高くなるという米国の研究報告もある[3]。研究者は「認知、判断能力が低下した高齢者の運転は危険であり、安全の面から運転をやめる必要があるのは事実」としつつ、「運転をやめれば健康状態は悪化するものと考え、その後の適切なフォローを用意すべき」とコメントをしているが、運転者自身だけでなく他人様の命や人生を奪う危険と生活負担増を天秤にかけた場合、リスクの重みを考えるとどちらを選択すべきかは明らかだと思う。確かに必ずしも二者選択で解決できるような簡単な問題でないこともわかるし、[4]の記事を読むと、クルマの運転が生活習慣化している高齢の親に免許返納を説得することが一般的には一筋縄ではいかないことは、クルマが単に移動手段(代替手段に切り換えればよいという議論の根拠)というだけでなく、使い手に生きる楽しみや所有する喜びをもたらし、それらがその人や家族の歴史と一緒に共有される稀有なプロダクトであるからに他ならない。このことは本書でも実にうまく表現されているが、だからこそ、不幸な記憶は残したくはないのだ。

うちのおじいちゃん01

父のような80歳以上、ここ最近の重大事故で第一当事者になっている人たちの多くは、日本のモータリゼーション黎明期である1950年代~60年代初期に免許を取って、高度経済成長期に新三種の神器といわれたマイカーを初めて手にした世代だ。日本のクルマ文化のパイオニアであり、クルマや運転に対する拘りも人一倍強く、またクルマ経験のかなりの部分をマニュアル操作で過ごした世代でもある。AT車の普及が一気に広がったのが80年代後半。‘85年にAT車比率が50%弱だったものが、’90年に一気に70%を超える。2000年には90%を超え、今ではほぼ100%だ。ちなみにこれはAT車大国と思われていた米国の約9割を上回る世界一の普及率だそうだ[5]。このデータから今80歳以上のドライバーのAT車初経験はかなり高齢になってからのハズ。私の父も一番最後に購入したステーションワゴンが初ATで、多分還暦を十分過ぎてからだったと思う。最初は慣れずにスタートでガクンガクンなっていた。そしてAT車の事故率はMT車よりおよそ2倍高いというデータもある[6]。特に出会い頭衝突と追突の事故でAT車が突出しているという。ここに高齢者のペダル踏み間違いが多い原因を解く鍵があるのかもしれない。

うちのおじいちゃん02

さらに、これから超高齢社会の主役を担うのは現アラコキ(古希)の団塊世代である。クルマが初めて生活ツールとして登場した前世代に比べ、彼らにとってはクルマは青春そのもの。「女の子にもてるには、そしてデートに誘うには、アイビールックで決めて、かっこいいクルマがなきゃいけなかった」というクルマが生活文化の主役に躍り出た世代だ(日本ではクルマはその時々でブームはあったが、カルチャーとしては残らなかったという桃田氏の意見に同感[7])。その団塊世代が中間管理職になった時、世はバブル真っ只中。彼らが企画・設計したクルマがF1をル・マンを制覇し、メルセデスも研究した世界標準の高級車初代セルシオを生み[8]、R32型スカイラインGT-Rがあのポルシェをも唸らせた(「日産スカイラインR32 GT-R」)。日本の自動車技術・文化が最も輝いた時代を築いてきた世代だから、免許返納して下さいなどと言おうものなら、そりゃもうテコでも動かないめんどくさい高齢ドライバーになることは目に見えている。

日本の戦後世代と名車の変遷
図2.日本の戦後世代と名車の変遷([9]~[14]を元に管理人作成)

絵本の中では、「おじいちゃんのクルマは(オンボロすぎて)スピードを出しすぎると、タイヤもはずれます」という場面があるが、これは冗談や笑い話ではなく、自動ブレーキのようにクルマがコントロールを失った場合、強制的に止められる手段を早く標準装備しないと。いや、この世代は自動で止まるクルマなんて嫌がるだろうなあ・・・。近い将来もっと大変なことになるかもしれない予感。

この絵本に描かれた風景がこれからも続いていくのか、このまま失われてしまうのか。これから先の家族の在り方とクルマとの関わり、今読むととても考えさせられるテーマになっている。初版当時に購入していたら、ここまで深く思いが及ばなかっただろう。10年先ですら、未来の風を感じることは難しいということでもある。

谷口國博
谷口國博
出典:OFFICE TANIZOU

作者の谷口國博さんは1970年生まれ。東京都の保育園に5年間勤務した後、フリーの創作あそび作家になる。絵本、子育て雑誌、新聞、保育雑誌にあそびやエッセイなど執筆。NHK「おかあさんといっしょ・あそびだいすき!」の番組慣習を担当し、「ブンバ・ボーン」など、楽曲や遊びの提供でも活躍。著書に『たにぞうの親子あそびでギュッ!』『うちのかぞく』『うちのきんぎょ』(世界文化社)、CD『たにぞうのおやこでぽっかぽかあそびうた』(キングレコード)など。イラストの村上康成さんはクルマノエホン2度目の登場(前回は『えんそくバス』)。

うちのおじいちゃん04



[参考・引用]
[1]特集 「高齢者に係る交通事故防止」 I 高齢者を取りまく現状、内閣府ホームページ、
https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/h29kou_haku/zenbun/genkyo/feature/feature_01.html
[2]特集 高齢者の自動車 1.高齢者がおこす自動車事故の特徴、一杉正仁、日老医誌、p186-190、2018、
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/55/2/55_55.186/_pdf
[3]高齢者が運転を止めると・・・ 気分が落ち込み身体能力が低下するリスク、エイジングスタイル、2016年2月19日、
http://www.agingstyle.com/2016/02/19000917.html
[4]「運転はやめて」と言うと、免許証を抱えて布団にもぐった父…1年間に及ぶ格闘の結末は?、田中亜紀子、ヨミドクター、2019年6月28日、
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20190625-OYTET50006/
[5]統計から見るMT車とAT車の普及率と免許取得割合のデータ、車査定マニア、
https://www.kuruma-sateim.com/statistics/mt-at-data/
[6]MT車(マニュアル)とAT車(オートマ)の事故率はどちらが高いのか?、
https://www.car-hokengd.com/koutuu-unten/mt-at-accident-rate/
[7]日系自動車産業のタブー。最大の敗北要因は「カルチャーの欠落」――トヨタ・日産・ホンダ等日系メーカーが自動運転とEV技術で「グーグル」に大負けするこれだけの理由【後編】、桃田健史、DIAMONDonline、2014年6月23日、
https://diamond.jp/articles/-/54934
[8]【世界を変えた偉大な革命児】レクサス戦略の犠牲になった!?セルシオ伝説、ベストカーWeb、2019年7月6日、
https://bestcarweb.jp/usedcar/78919
[9]全20種類!○○世代一覧、社会人の教科書、kaoru、
https://business-textbooks.com/generation-list/
[10]団塊・バブル・ゆとり…世代別の特徴&時代背景 【懐かしの〇〇】、NAVERまとめ、2014年2月25日、
https://matome.naver.jp/odai/2139325332252480901
[11]あなたは 何アラ? ですか?、NEO畑人、人生ドラマチック、
https://ameblo.jp/6w-3h/entry-11388784822.html
[12]国産名車、年代流行、
https://nendai-ryuukou.com/car.html
[13]ノックダウン生産の時代(1953年)、GAZOO、2014年4月18日、
https://gazoo.com/article/car_history/140418_1.html
[14]初めての車は、新車か中古車どちらを買うかについて調査!、かんたん車査定ガイド、
http://a-satei.com/se-investigation/538/
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