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映画『長いお別れ』…あの女優さんも

長いお別れ

先日、親父に電話を入れると、なんとかホーム生活にも慣れてきたようだった。私のことはまだわかるようだw。部屋に電話を設置するのにも色々高いハードルがあり、調整するのにホント疲れた。携帯を持って行けば良いのでは?と思われるだろうが、90歳の老人にかんたんケータイとかスマホとかと言われても使えないのだよ。特に認知症が出始めるとね(全く使われておらず無駄な費用を払い続けていたガラケーの契約はもちろん解約)。じゃあジュニア携帯はどうですか?ってバカにしてるのか、D社さんよ。やっぱり受話器を取ってすぐに会話できる据え置き型が昭和世代には一番使いやすい。東京五輪の申し込みだってネットオンリーって、完全に高齢者排除じゃん。その申込みサイトだってものすごく使いにくい設計だった(結果我が家は全滅…TVで見よっと)。高齢社会と言われて久しいけれど、公共の手続きもそうだが、サービス提供側が高齢者やそれをサポートする人間の使い勝手を本当にわかっていない。というか、歴史上人類が経験したことがない超少子高齢社会なので、国や社会のデザインをどうすべきか自分も含めて誰も想像力が働かないのだよね。年金問題だけじゃない、全国民が柔軟な発想で対策に取り組まなければ日本の社会はじきに破綻する(それを回避できるチャンスは過去に幾度かあったのに)、そう憂慮する事柄が親の介護に関わるとわかってくる。そんな煩わしい実家での調整事をひととおり片付け、帰り支度をしていた先月末、『長いお別れ』(2019)という映画が公開されるという情報が目を引いた。原作は直木賞作家・中島京子さんの同名小説(文藝春秋)で、認知症の父親と優しく見守る家族の7年間の軌跡を描く家族ドラマだ。モデルとなった中島京子さんの父・中島昭和氏も親父と同世代[1]、父の認知症はまだ初期の段階だが、私は優しい家族ではないものの他人事じゃないし、あまりにもタイミングが良すぎる。4月の帰省時も帰り間際に『ビル・エヴァンス タイム・リメンバード』の公開がスタートしてすぐに観に行ったけど、今回も公開初日、横須賀に帰る前日に地元の映画館まで足を運んだ。

蒼井優
博多のひと
出典:週刊女性PRIME



主演は山﨑努さん。昔から好きだった存在感ある俳優の一人だ。ふと、竹野内豊さんと共演していた『世紀末の詩』って古いテレビドラマを思い出したが、ホント彼も認知症じゃないかと思うくらい名演技だったね。彼はこの原作を読んだ際に、映画化されるのではないか、とすれば主人公の昇平役は自分にオファーが来るのではないかと予感があったそうだ[1]。脇を固めるのは妻役に松原智恵子さん、長女役に竹内結子さん、そして作者のモデルである次女役にあの蒼井優さん(わずかな出番だけど彼女の幼なじみ・恋人役に旬な役者・中村倫也さんなど)と地味な映画ながら実力派揃いの豪華キャスティング。なぜならば、監督は『チチを撮りに』(2013)や『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016)などで今注目の日本人監督の一人、中野量太さんだからだ。山﨑さんに加え、同郷の演技派女優、蒼井さんが出演していたこともこの映画を敢えて福岡で観に行った理由の一つだったが、まさかその2週間後にあの電撃発表があるとは…。

映画の内容は深刻なテーマを扱っているが、くすっと笑えるユーモラスな場面も時折散りばめられていて極力重くならぬよう工夫されている。やはり老夫婦(ヘンリー・フォンダとキャサリン・ヘプバーン)と娘(ジェーン・フォンダ)、孫との交流を描いた佳作、私も大好きな『黄昏(原題“On Golden Pond”』(1981、米)と重なって見えた。この映画でも祖父と孫との関わりが非常に重要なポイントになっている。親父に電話を入れたときも息子と変わったのだが、ちょうど部活の練習で疲れ果てて帰ってきた後で愛想も悪くてダラダラ話をしていたもんだから、後で聞いてみると「もうちょっとシャキっと話せ」と一喝したのだとかw。祖父と孫(男の子)との関係性はちょっと興味深い。



もう少し深刻な話をすれば、周りの家族が良かれと思ってアドバイスしたことに突然キレるという認知症あるあるの場面も経験者ならば痛いほどわかる。私もこれから父にリハビリパンツを定期的に送ることにしているが、親の汚物の処理なども少し経験すると(といっても日常的に介護をしていた訳ではないから、日々自宅介護をされている家族の方や、病院や施設のスタッフには本当に頭が下がる)、自分の子どもたちのおむつ替えの頃を思い出した。また亡くなるまで老々介護し続けたお袋の名前すら時々思い出せなくなってきたので、山﨑演じる昇平が献身的に支えてくれた妻の記憶を徐々に失っていく姿は涙なしでは見られなかった。(俺、最近涙もろくて)

人間って最後は子どもに戻るんだよね。赤ん坊を育てていた頃は、こんなに弱々しいのがちゃんと育つのかなあとか、おむつ替えてあげたことも覚えていないんだよなあとか考えながら必死に世話をしていた。数年前自宅で父が転倒した時、抱き起こすと子どものように小さくなった背中がブルブル震えていて、今度は自分で下の世話も出来なくなってきて。そして父のために東奔西走したことも、私のことすらもいずれわからなくなるかもしれない。こうして親から子、子から親へと同じことが巡り巡っていくのだなと不思議に納得した。だから非婚化で子育てを経験せずに、いきなり親の介護に直面する人はちょっときついだろうなと思う。非婚や子どもを持たないことを否定する訳ではないが、その心構え、覚悟はしておいた方がよいという意味だ。


映画の主題歌『めぐる』を歌う優河さんは、福岡出身のロックバンド”ARB”のボーカルで俳優の石橋凌さんと女優・原田美枝子さんの長女

アメリカでは認知症のことを少しずつ記憶を失くして、ゆっくりゆっくり遠ざかっていく―その様子から” Long Goodbye”と呼ぶそうだ[2]。映画のタイトルの由来である。家族の中で認知症を経験したことのない人にとってはピンと来ない物語かもしれないが、近い将来65歳以上の1/5が認知症を発症するという厚生労働省の報告もあるので[2]、家族だけでなく自分自身がその病に冒されることも想定しておかなければならない。今この原稿を書きながら、私の脳内でも少しずつ病気が進行しているかもしれないしね。最近物忘れが酷くて…。父のホームでの生活を準備していた時に、CDラジカセでも持って行こうかと言ったんだ。親父は昔からクラシックファンで、もはや針を下ろすことのない大量のLP盤に混じってCD盤もそれなりにあったから、部屋で好きな音楽でも流せば良いと思ってね。でも父は音楽なんて聴かないという。「ミュージックミラー」といって脳の神経が最も記憶に残すのは音、音に対する反応は最後まで残るのだそうだが、認知症はあらゆる興味をも奪ってしまうようだ。本人が否定しても聴かせてみれば良いのだろうか。「認知症の人」の中には「その人」がまだ眠っているそうだから[3]。

表向き、明るく前向きな家族を描く映画にはなっているが、実際にはこの裏で辛く落ち込むことも多々あったはずだ。それでもポジティブな家族の見守りのカタチもあれば、もっと厳しい状況にネガティブにならざるを得ないケースもあるだろう。若年性認知症になれば、さらに“Long Goodbye”の時間は長くなる。病状や家族の考え方、接し方は人それぞれなので、こればかりは何が正しい解だとは言い切れない。ただ効果のある治療法が見つからない限り、今後誰もが目の当たりにする風景だということ、そして認知症患者だけでなく膨れ上がる高齢者を支える社会の仕組みに明るい見通しが立っていない事実は、嘘をつかず誤魔化さず、ちゃんと詳らかにして議論をした方が良いと思う。安倍さんのいう少子高齢化への政策の一つが「希望を生み出す経済」だというのはわかる。日本が儲ればたくさん税金を納めてもらえるからだ。でもその経済成長の解が「東京五輪」と「大阪万博」「カジノ」でいいのだろうか。イベント頼みの昭和発想から何も変わっていない。

この作品は認知症には前向きであることが「絶対的不可欠」[3]と説いているのだとは思うけど、一方で日本社会の絶望的な近未来も透けて見せる実は怖ーい映画なのではないか。こういう問題は情緒だけ家族だけでは限界がある、もっとロジカルでドライで具体的な何か(仕組み)を模索しないとってね。メンタルの弱いひねくれ者の私はちょっとそう思ったのだ。

次回はこの映画でもその関係性がユニークで面白かったおじいちゃんと孫の少年が主人公のクルマ絵本を紹介しようと思う。と同時に、昨今問題になっている高齢者と自動車運転についても考えてみたい。

祖父と孫
こんな山崎努は見たことない!孫からベタ褒めでご満悦!?



[参考・引用]
[1]蒼井優「自分にとって意味のある作品に」『長いお別れ』公開、TVLIFE、2019年6月3日、
http://www.tvlife.jp/entame/227713
[2]『長いお別れ』感想投稿&寄付のご案内、『長いお別れ』公式ホームページ、2019年4月15日、
http://nagaiowakare.asmik-ace.co.jp/info/archives/152
[3]認知症になる前に、好きな音楽とその理由をメモに残そう、ヒューゴ・デウァール博士・冨岡史穂、なかまぁる、2018年12月21日、
https://nakamaaru.asahi.com/article/12018720
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[ 2019/06/27 21:27 ] Fukuoka/福岡 | TB(0) | CM(0)

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