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楽しいクルマ絵本の世界/エンスーのためだけじゃないクルマ絵本ライブラリー

世界の■のりもの 自動車じどうしゃ  

真鍋博 自動車じどうしゃ

先日記事にした「かこさとし展」を観終わった後、東横線で帰る途中に白楽で降りてみた。ちょっと寄ってみたい古本屋さんがあったので。白楽は古本屋が多い街だが、その日訪れたのは数年前に出来た「Tweed Books」ってお店。この記事を読んでいつか行ってみようと思っていたんだ。ファッションが好きで、古書店の仕事着にも拘るお洒落な店主だ。ファッション関係本が占める割合も他店より圧倒的に大きい。いつものように店内を黙ってぐるぐる探索していると、ご近所なのか絵本を探しているというご婦人がやって来た。植物を描いた絵本で、作者は有名な(日本人の?)女性というヒントだけで、店主も親身になってその答えを導きだそうとしていた。私も頭の中を巡らしてみたが思い浮かばない。まさか今行ってきたばかりのかこさとし=加古里子を“さとこ”と読み違えているんじゃないかと。でもかこさんの作品に植物絵本が浮かんで来ない。そうこうしているうちにご婦人も諦めて「また出直します」と言って店を出た。その後も徘徊していると、奥の棚に珍しく真鍋博の書籍が何冊か。おおーっ。そして真鍋とゆかりのある星新一の書籍も幾つかあって、懐かしいなあとペラペラめくっていると、「星新一お好きですか?こんな本もありますよ」と店主が本を取り出して気さくに声をかけてくれた。そこから彼と星や真鍋のことで色々話し込んでしまった。店主と長話できたり、お客の本の相談にも親身になれる地域のコミュニティ空間としての古本屋は、横須賀の「港文堂」と感覚が似ている(「港文堂」は呑み屋みたいがだねw)。寡黙な店主が帳場で店番する、寡黙な客が知の空間に浸る、そんな光景を古本屋にイメージしてしまうが、お客さんとこうして積極的にコミュニケーションするのが好きだとおっしゃっていたおしゃれ店主さんは、港文堂を愛する古本屋ツアーガイド、小山力也さんのこともよくご存じだった。最終的に購入したのは真鍋の『有人島』(講談社)とタモリの『TOKYO坂道美学入門』(講談社)。坂道ですか?の店主の問いに「坂の多い横須賀からの客なのでね」。と、前置きが長くなったところで、店主との話の中でも登場した『世界の■のりもの 自動車じどうしゃ』(真鍋博・作、主婦と生活社)を今宵は紹介する。私が所蔵するクルマノエホンの中でベストは?と問われれば、恐らく内容・希少性ともに1、2位を争う絵本がこの真鍋本だと答えるだろう。

真鍋博
真鍋博[7]

真鍋博。イラストレーター、アニメーター、エッセイスト。色々な顔を持つマルチ作家。1932年、宇摩郡別子山村(現、愛媛県新居浜市)に生まれた彼は、新居浜西高等学校を経て、昭和29年(1954)、多摩美術短期大学絵画科(油画)を卒業後、東京都の教員として採用され港区立赤坂中学校に美術教師として勤務。その後大学院に進学し、研究科修了後洋画家として出発されている。大学在学中より、二紀会展や読売アンデパンダン展に出品し、昭和30(1955)年には池田満寿夫、堀内康司らとグループ「実在者」を結成、個展で社会風刺の強い作風の油彩を精力的に発表した。後に印刷媒体を中心としたイラストレーターに転向し、朝日ジャーナル連載の空想科学小説『第七地下壕』の挿絵で、昭和35年(1960)、第1回講談社さしえ賞受賞。これを契機に真鍋は1960年代ブームとなった。同年久里洋二、柳原良平と共にアニメーション3人の会を結成、実験アニメの上映会を開く。ニューヨーク世界博日本館の壁画、日本万博三菱未来館はじめ、沖縄海洋博、ポートアイランド博、筑波科学博などに参加。星新一や筒井康隆などSF小説の挿絵を多く描き、「未来画」には欠かせないイラストレーターとなった。自身日本SF作家クラブ会員でもあった。未来画真鍋のきっかけとなったのが、1964年のニューヨーク世界博日本館壁画「夢か現実か?」なのだそうだ。その他にも小田実『何でも見てやろう』、高橋和巳『悲の器』(河出書房)など本の装幀も手がけた。作品集に『真鍋博Original 1975』『真鍋博Original 1985』(講談社)などがある。彼は優れたエッセイストとしても知られ、著書に『ひとり旅教育法』『たびたびの旅』(文藝春秋)、『イラストからの発想』(PHP研究所)、『真鍋博の昆虫記』(中央公論社)、『遊々ウォーキング』(同文書院)、『発想交差点』(実業之日本社)などがある。『鳥の眼』(毎日新聞社)でも紹介したが、彼の文明批評は鋭い[1]~[7]。

1966年福岡博 記念のポストカード 絵/真鍋博 文/星新一
1966年福岡博 記念のポストカード<技術革新のマツダ>(絵/真鍋博 文/星新一)
出典:星新一☆お宝写真館

中学時代には友人に薦められて星新一の作品をよく読んだし、高度経済成長期だった小学生の頃、雑誌なんかで未来図と言えば、あの真鍋独特の世界観だったから、僕ら世代が想い描いた未来の姿は彼の絵に刷り込まれたと言ってもよい。だからなのか、彼の創造力がすごかったのか、半世紀以上前に描かれた未来社会や都市のイラストは、今見ても何の違和感もないくらいそのまま現実の姿となっている。本書はちょうどその頃の昭和46年(1971)、大阪万博翌年の初版本、彼が一番脂の乗りきっていた時代の作品である。21世紀をこの目で見たいと後年は健康に気を使い、自身の未来のイメージは、人と自然が共存する世界だろうと語っていた真鍋は、その21世紀まであと2ヶ月を残した2000年10月に他界されている[1]。

週刊少年キング1970年1号のグラビア
週刊少年キング1970年1号の真鍋博特集グラビア[8]
出典:愛知産業大学造形学研究所報2014年10号

自動車絵本を集め始めた初期の頃から、この本は私の網に引っ掛かっていた。しかし何せ古い、しかも鬼籍に入られた人気作家の本である。まず現物を見ることは叶わないだろうと思っていた。Amazonやネット古書店、オークションサイトでごく稀にヒットしても、半端ない値付けや落札額になっていた。そんなある日、4、5年くらい前だっただろうか、学芸大の飯島書店を訪れた時のこと。ここには店頭にガラスのショーケースがあるんだが、そこをふと見るとこの『自動車じどうしゃ』が置いてあったんだ。初めて本物をみるその本の値段が1万5、6千円くらいだったかな。「やっぱりたけーな」と思いながら実物を拝められるのはこれが最後かもと、店主にお願いしてケースから出して見せてもらったんだ。ページをめくるとその中身がスゴかった。後年、別の珍しいクルマ絵本を購入した雑貨屋の店主が、やはりこの絵本を直接見たことがあって、その素晴らしさに話が盛り上がったことがある(「かず動物園」)。それほど誰もが認めるアートとしての完成度の高さ。しかも少し反りはあったものの程度はかなり良い。それでも手持ちのカネでは買えなかったし、この値段なので泣く泣く店を出た。帰宅した後もしばらく気になって、ネットで検索してみてもAmazonの古本じゃ8万以上の驚愕なコレクター価格になっていたし(今でも最低6~7万から!)、たまたまネット書店に出ていたものも2万以上する高額。それらを考えると飯島書店の値付けは安いのかもしれない、ここで逃すと後悔するぞと、もはや金銭感覚が狂ってきた。趣味で散財する人たちは色々見聞きするけれど、これがコレクターがいつかは通る道なのかとも思った。悶々と半月を過ごし、ついに意を決して飯島書店に電話をかけてみたのだ。「半月前に真鍋博のじどうしゃを見せてもらった者ですが、まだその本ありますか?」と。しかし、既にその絵本は人の手に渡っていた。逃した獲物は大きかった。

世界の■のりものシリーズ
ついに入手した「世界の■のりものシリーズ」

それから時を経て昨年、ルーチン化しているオークションサイトのチェックをしていると、この幻の絵本が出品されているではないか。この「世界の■のりもの」は、主婦と生活社のシリーズもので、自動車以外にも、『鉄道てつどう』(水野良太郎)、『船ふね』(柳原良平)、『飛行機ひこうき』(おおば比呂司)の計4冊が出版されている(当時の定価が各820円)。いずれも当時のイラストレーターとしては錚々たるメンバーで、昔このフルセットの写真がネットに出ていたのを見たことがあるが、表紙を見る限りどれも甲乙つけがたいクオリティの高さ。のりもの好きにはたまらないシリーズだろうし、個々の趣味人にとっても各々手に取って読んでみたい本だと思った。自動車同様どれも、もはや手にするどころか見ることも敵わない代物で、4冊セットの完品が出て来たらマニアにはたまらないお宝のはずだ。そのうちの2冊、自動車と飛行機がセットで出品されていたのだ。デフォルトの価格が、たしか先の飯島書店で見つけた真鍋本と同じくらい。クルマノエホンだけでなく、ヒコーキノエホンにも手を出したいと危険な欲望が湧き出していた頃だったので、希少本2冊でこの価格は買いでしょ!と急に気持ちが大きくなってしまった。飛行機好きで知られ、多くの飛行機イラストを残しているおおば比呂司さんのイラストも、それはそれは素晴らしかったのだ。で、ポチっとしたワケだけど、正直こんな値段で本を買ったことがなかったし、当然まだ競争相手が存在する可能性もあった。ドキドキしながら競売経過を見届けたのだが、幸運?にもこのまま私が落札をしたのである。もちろん我が家の財務省には内緒で^^;)。完全な大人買いである。

自動車じどうしゃ01
自動車じどうしゃ02
自動車じどうしゃ04
自動車じどうしゃ03
上から「蒸気自動車」「乗用車●日本」「ものを運ぶ車」「レースのいろいろ」(『自動車じどうしゃ』より)

落札した2冊の絵本は、もちろん所々にシミなど半世紀を経て来たそれなりの証はあったものの、破れはなかったし、何よりも一番大切なイラスト部分は当時のままの鮮やかな色合いを完璧に残していた。当時の宣伝チラシのおまけ付で。自動車本の方はタイトルや車名以外は一切テキストのない文字のない絵本。未来派真鍋にしては珍しく、自動車の過去から現在までのクルマを紹介する(レースカーや軍用車、高速道路などのインフラに至るまで)緻密な自動車歴史図鑑のカタチを取っている。奥付を見ると、当時カーグラ編集顧問の高島鎮雄氏(「じどうしゃ博物館」)が企画協力・資料提供となっていて納得。もちろん、真鍋のモダンでウィットに飛んだ表現描写は至る所に溢れている。

自動車じどうしゃ05
「未来の交通」(『自動車じどうしゃ』より)

彼の真骨頂ともいえる未来予想図は1枚だけ、「未来の交通」というタイトルで綴じられていた。ハンドルから手放し操作するレベル3の自動運転車から、ハンドルのない車内で新聞やコーヒーを飲むパッセンジャー、すなわち今でいうレベル5のロボットカーも描写されている。対向車にはステアリングならぬ、ジョイスティックで操作するドライバーも(「福祉車両」)。このイラスト通りの世界が、今まさに訪れているのだ。一方で、椅子のような乗り物がビジネスマンの移動ツールとして描かれている。つい先日読んだ「ホリエモンが本屋を経営する、ブルー・オーシャンな理由」というムーギー・キム氏との対談記事の中で、堀江貴文氏が次のように語っていたことを思い出した。

常に自分で思考する例として、モビリティの未来について話したいんですけど。例えば、モビリティの未来を考えた時に、その主役になっているのは、僕の中では、テスラじゃないんですよ。モビリティの未来で中心を担うのは、今の自動車を自動運転車にそのまましたものではなく、パーソナルモビリティ自動運転車なんです。今、パーソナルモビリティって言っていますけど、多分違う名前になると思います。・・・(中略)・・・

今、パーソナルモビリティはiPhoneが出る前のPDAが使われていた時と、同じ状況なんですよ。まだiPhoneのような正解が出ていない。これからどうなるかと言うと、僕は公共交通とのハイブリッドになると思っていて。現在出ているパーソナルモビリティには、セグウェイとか、シャオミ傘下のNinebotの製品とかがある。けれど、こういった形ではなく、僕は、これから広まるのは、椅子の延長だと思っている。今、椅子に座っているじゃないですか。僕の椅子じゃないから、長時間ずっと座っていたら、多分腰が痛くなると思うんですよ。何でそんな椅子に座っているんだろうと思いませんか。人の携帯電話は使わないのに、みんな自分の椅子じゃない椅子を使っていますよね。・・・(中略)・・・

(自分にカスタマイズされた椅子が)勝手に動き回る。姿勢制御機能が付いていて、自動運転機能が付いていて、自分のクラウドにある自分の予定とも、連携している。すると、僕が次にどこへ行くか分かっているでしょ。時間になったらアラートが出て。(以下略)

車椅子は全ての人のためのパーソナルモビリティ=ユニバーサル・デザインになる?


自動車じどうしゃ05-1
自動運転車とジョイスティックカー.自動運転車はガイドバーに沿って走っている.現在巷で研究されている自動運転車の多くは、基本スタンドアロン、つまり自己位置と外界認識してどこでも走行可能な自律型だが、このようにガイドに従って(検出して)走るとか、バスのようにルートを決めて走る自動運転の方が現実的だと思うのだよね.皆、完全自律型に幻想見過ぎ.

いかがだろう?真鍋が未来を予知しているのか、時代が彼に追いついているのか、本書の最後に、未来屋ではない、その心眼で未来を見通していた真鍋博のスゴさに寒気すら覚える、トンデモないクルマ絵本である。(了)

未来屋という言葉があるそうである。大風呂敷をひろげ、予算獲得の華々しいその場限りのアイデアを振りまくプラン屋を言うらしい。(真鍋博『絵でみる20年後の日本』より)


スタンプサービス01スタンプサービス02
前述のTweed Booksでこんなサービスやってますと.他の古書店とコラボで、スタンプラリーを制覇すると、共通の割引が受けられるサービス.古書店業界も単独では生き残り大変なのでございます.どれも私がよく行く店ばかり(川崎の近代書房は最近行ってないなあ).鎌倉の公文堂書店では探し求めていたクルマノエホンをゲットしました.

[参考・引用]
[1]真鍋博、Wikipedia、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9C%9F%E9%8D%8B%E5%8D%9A
[2]真鍋 博、愛媛の偉人・賢人の紹介、愛媛県生涯学習センター
http://www.i-manabi.jp/pdf/museum/172.pdf
[3]真鍋 博、20世紀日本人名事典の解説、コトバンク
https://kotobank.jp/word/%E7%9C%9F%E9%8D%8B%20%E5%8D%9A-1655514
[4]交友会組織、多摩美術大学ホームページ、
http://www.tamabi.ac.jp/alt/organization/yakuin.htm
[5]イラストレーター・真鍋博の「遊び車の思想」にみられる未来像、竹内孝治、中山隼雄科学技術文化財団:年次報告書2012、
http://www.nakayama-zaidan.or.jp/report/h23/H23-B-13.pdf
[6]真鍋博に学べ! 昭和の異才が遺した未来生活のための5つのアイデア、TOM KAWADA、WIRED、2014年1月11日、
https://wired.jp/2014/01/11/manabe-hiroshi/
[7]私の愛したイラストレーター 真鍋博の世界、猪飼俊介、BIRD YARD、2009年12月9日、
http://www.albatro.jp/birdyard/illustration-art/manabe-hiroshi-illustrato/index.htm
[8]まんだらけ札幌VIN 哭きのいわ城Twitter、2016年7月26日、
https://twitter.com/sapporovintage/status/757847392993415169
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Posted on 2018/09/24 Mon. 18:48 [edit]

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