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#死角アート

ずいぶん前からタメ込んでいたネタを少しずつ吐き出そうと思います。今回は先月のGWでの話です。「こどもの日」の土曜日。横浜にある日産のグローバル本社で面白そうなイベントがあるとネットで紹介されていたので行ってみました[1]。昔ならクルマ=息子を連れて遊びに行ったのでしょうが、その彼も中学3年生。部活やら受験勉強やらで忙しいため、私一人で足を運びました。アート系のイベントだったので、デザイン科を目指す娘を連れてという選択肢もあったのですが、浪人生にそんな余裕があるはずもなく(実のところ、そのアホは家でボーッとしていたようでしたw)。この後に別の行きたい場所もあったので、家族に黙って横浜へ出かけました。そのイベントが「#死角アート」です。死角アート?

アートといっても中身は自動車会社らしく最新のテクノロジーが関係しています。それが「アラウンドビューモニター」という商品化技術です(以下AVM)。以下のCMをご覧になったことがあると思います。



最近は他社も含め、このような技術が当たり前になってきたからかもしれませんが、CMではあまり気に留めることがなくなりましたね。N社は永ちゃんのイメージの方が強すぎて・・・(完成車検査の問題以降、お見受けしませんが)。まるで自分のクルマを空から見ているような画像が表示されるというこの技術の宣伝です。もちろん愛車エクストレイル君には付いていませんが、これを疑似体験できる素敵なおもちゃのことを大昔に紹介したことがあります(「ターボ・パイロット、クルマの知育玩具」)。ずいぶん遊んだ息子も、もうそんな歳でもありませんし、だけど捨てるにはあまりにも惜しい、貴重なものなので、今はこんな風に部屋の中でディスプレイされています(ゴム部品がだいぶ劣化してきました)。

ターボ・パイロットは今
ターボ・パイロットは今:ごちゃごちゃと片付かんなあ・・・

AVM概略図
図1.AVM概略図[2]
AVM画像生成の流れ
図2.AVM画像生成の流れ[2]

さてこのAVM、人工衛星から撮影しているの?なんて笑い話もあるようですが、クルマの四方に取り付けられた広角カメラで、クルマ上方の仮想視点(図1)からみた画像に座標変換をし(幾何ですね、サイン、コサインの世界です)、最後に4枚の絵を組み合わせ、あたかも空から見た自車周辺の画像として置き換えている技術です(図2)。

#死角アート その1
#死角アート その2
#死角アート その3

肝心のアート作品は、これらの写真のように新型リーフの三方(フロント、サイド、リア)にワイヤーアートが置かれています。しかしこのアート作品、ドライバーズ席に乗ると(ミラーを通しても)全く見えなくなります。つまり作品が設置された領域は全て運転席からの死角ということになります。死角はこれが全てではないですが、こんなにも見えていないことに驚かされます。もしここに子どもがしゃがんでいたら・・・。

#死角アート その4
ドアミラーからも見えない.側方を走るバイクですら見えない領域があり、実はドアミラーってあまり見えていないんです.
出典:IRORIO

そこで真打登場です。上から見れば、死角はなくなりますよね(正確にはゼロではないですが)。そしてその表示画像にもまたアートが隠されています。写真を見てもわかるように、一見何の造形かわからなかったワイヤーアートが動物に大変身。この作品を作った造形作家・武藤裕志氏による錯視的造形(トリックアート)の真骨頂です。遊びに来た子どもたちはさぞ驚いたことでしょう。

#死角アート その5

ここで疑問です。実際にこのリーフの真上から見ても、このように動物の絵が浮かんで見えたのでしょうか?吹き抜けになっている日産本社ギャラリーからは試してみることはできませんでしたが、実は必ずしもそうではないようです(説明員の方もおっしゃっていました)。AVMの画像変換技術は、「路面はフラットであり、物体は路面上に存在する」という仮定のもとにプログラムを組んでいます[3]。地面から突き出したポール上のものや、周囲に駐車した車両のように高い位置に存在する立体物は、モニター上では表示されなかったり、少しいびつなカタチに表示されます[4]。改めて造形の形を確認すると、地面に直に描かれたり、平らに置かれた作品ではなく、死角領域に重なるように立体的な造形になっていますから、上から直接見たときに動物の絵が浮かぶように作ってしまうと、モニタ上では少し変な象や鳥やライオンになっていたはずです。そうならないように、AVMの特性も予め計算して造られていたんですね。まさに二重のトリックアートです。

#死角アート その6
ちょっと斜め上から見た感じ
出典:ニコニコニュース

レーザーやソナーのセンサーで周囲の物体の高さも検出できれば、より精度の高い座標変換が可能になり歪のないリアルな画像を提供することも原理的には可能でしょう。しかし、四方の画像はスムーズにつながれてもいませんし、明るさもバラバラです。今やコンデジのパノラマ写真機能の方がまだきれいに自動生成してつないでくれるでしょう。また物体との位置関係も実際とは異なって見えるようです[3][4]。でもこの技術ではあえてそこまでのリアルさや正確さを追求していません。この技術はハンドルと連動して動きながら画像をリアルタイムに処理しているので、見た目や精度補正に拘ると処理のための計算もかかりますしコストUPにもつながります(実際に最初の試作段階ではカメラが8個も付いていました[3])。それよりも、きれいにつないでしまうと場所に応じて生じている影が消えたりすることで、撮った画像がリアルなシーンではなくなってしまうことがあるそうです。また、境界線を無くしてしまうと画像のつなぎ目で急に色が変わってしまうこともあるので、あえて線は残しているとのこと。この技術に最も求められている機能は安全性、それも運転者が直感的に瞬時に周囲の状況を理解できることです。開発者の言葉を借りれば「きれいな画像は必ずしも運転者にとって理解しやすいものではない。重要なのは運転者が使いやすいものだ。」ということです。

実際のAVMシステム表示
実際のAVMシステム表示
出典:日本の自動車技術330選

このようなクルマの表示装置もそうですが、皆さんが日頃使っているスマホなど、技術の進歩は著しく、どんどん機能は高度化・複雑化し、画像もより美しくなっています。でもプロダクト、特に人の命に関わる製品に最も重要なことは、利便性やエンタメ性、見た目の美しさよりも「誰のため何のためのデザイン?」ということなのです。自宅の駐車場で親が子どもを轢いてしまったという悲しいニュースを耳にすることがあります。また運転中にスマホのゲームをやりながら死亡事故を起こすという怒りのニュースも問題になりました。このような悲劇を二度と起こさないためにも、技術者の方々は日々研究をされているのだと思います。ユーザーの我々もまた、これだけの死角を抱えながら運転をしているんだということを肝に銘じなければなりません。AVMも見せるだけの技術、流行りの自動運転技術ではなく(これも決して完璧なものではありません)、あくまで最終判断はドライバーの責任です。

オッサン向け その1
オッサン向け その2
オッサン向け その3
オッサン向けはやはりこちら:懐かしいサニー1000バンとGT-Rシャシーのカットモデル

この後、その安全性について、別の視点で考えさせられたメーカーのクルマを見に行きました。
(続く)





[参考・引用]
[1]ドライバーの“死角”をワイヤーアートで表現 — 日産が安全性の訴求を目的に展示会を開催、宣伝会議、2018年4月26日、
https://www.advertimes.com/20180426/article269613/
[2]アラウンドビューモニタの開発、鈴木政康、知野見聡、日本機械学会誌 Vol. 111 No.1073、p332、2008年4月、
https://www.jsme.or.jp/publish/kaisi/080402t.pdf
[3]誰にでもわかる車載画像処理 ―車の周囲を見る技術・見せる技術―、下村倫子、セミナーレポート、画像センシング展、2011年8月25日、
https://www.adcom-media.co.jp/report-iss/2011/08/25/5836/
[4]アラウンドビューモニターについて、日産リーフ取扱説明書、日産自動車ホームページ、
http://www.nissan.co.jp/OPTIONAL-PARTS/NAVIOM/N32/NAVI/CONTENTS/n32-n-j01-a37df61f-3529-43f0-96e6-2236d2e26469.html
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