くまのもの
出典:T-SITE Lifestyle

連休が始まる前、息子と二人で久しぶりに東京駅へ出かけたんだ。「安藤忠雄展―挑戦―」に続く、愚息との建築探訪第二弾、すったもんだの挙句、火中の栗を拾う形で新国立競技場の設計を担当した建築家・隈研吾さんの展覧会「くまのものー隈研吾とささやく物質、かたる物質」を見るためにね。会場は私も初めて訪れる東京ステーションギャラリー。場所も含めてちょっと異色の面白い建築展だった。

建築作品というと、どうしても建物の(斬新な)カタチに目が行ってしまうが、この展覧会は建築物の「素材」に着目したものである。現代建築といえば鉄とコンクリートと思いがちだが、考えてみれば古今東西建築物は、木材であったり、竹、石、瓦、煉瓦、他にも土や漆喰といった様々な素材が使われている。隈研吾は、近代工業化社会の“制服”ともいえる鉄とコンクリートに代わる素材を求めて、さまざまな物質と格闘してきたのだそうだ[1]。その格闘の歴史を語ったのが、この「くまのもの」なのである。

Brock Commons
現在、世界最高層の木造建造物「Brock Commons」(カナダ)
出典:The University of British Columbia

そういえば最近、住友林業が国内で300m越えの木造超高層ビル建築の構想を発表したよね[2]。世界各国でも木造の高層建築物の建設プロジェクトが進められている[3]。カナダの建築家・マイケル・グリーン氏は、次のように木造建築の必要性を語っている[4]。

『(近代建築の主要な素材である)鋼鉄は人が発生させる温室効果ガスの3%に貢献し、コンクリートは5%以上にもなります。一方で、森の中で木が成長する時には酸素を発しながらCO2を吸収します。木がその命を終えて森の地面に朽ちていくと、大気か地中に吸収したCO2を戻してしまいますが、この木を伐採して建物の一部に使ったり、家具を作ったりすれば、実は木は驚くほどの量のCO2を閉じ込めることができて隔離システムを提供してくれます。1立方メートルの木はおよそ1トンのCO2を閉じ込めることができるのです。』

ORIZURU
ORIZURU by Ken Okuyama
出典:天童木工

建築とは異なるが、プロダクトの世界でも、工業デザイナーの奥山清行氏が素材に拘った面白い挑戦をされている。彼の作品に<ORIZURU>という椅子がある。通常なら厚さ15mmでないと耐えられない荷重を厚さ10mmの成形合板を折り紙のように曲げて作ることで耐えられるようにした。とは言っても木を紙のように折り曲げることはできるのか?彼は山形の木工職人さんと一緒に、1mm厚の合板を10枚、水性接着剤を塗って重ね、ゆっくりとプレスで曲げていった。試行錯誤の末に完成した<ORIZURU>は強く、かつ木の弾性により座り心地も非常にすばらしいという[5]。

隈氏やこの奥山氏も、単に古くから使われているというだけでその素材を活用している訳ではない。職人の技や科学技術の理論を駆使して、素材の新たな可能性に挑戦しているのだと思う。そんな数々の可能性を見終わって、建築の素材って、こんなにも多種多様で、そのいずれもなんと表情が豊かなんだと目から鱗の展覧会だった。

≪木≫
くまのもの 木01
複雑な木組み
スタバ@大宰府
展覧会でも紹介されていたスターバックス大宰府天満宮表参道店(2015年1月10日撮影)
くまのもの 木02

≪紙≫
くまのもの 紙
いうなれば生卵ケースのブロック


≪石≫
くまのもの 石

≪瓦+ステンレス(ワイヤ)≫
くまのもの ステンレス


≪プラスティック≫
くまのもの ステンレス

≪布≫
くまのもの 布


≪カーボンファイバ(ワイヤ)≫
くまのもの カーボンファイバ
小松製錬ファブリックラボラトリー

隈研吾さんは前回の東京オリンピック建築を見て、建築家を目指したというから、今回請け負った新国立競技場の仕事には強い思い入れがあるのだろう。彼が東大建築の院生の頃、新進気鋭の安藤忠雄に同級生の多くが憧れた。しかし、彼は安藤のような建築家個人の作家性が強いアトリエ系設計事務所ではなく、真逆の設計を専業とする大手組織系設計事務所を経て、大手ゼネコンで腕を磨いた[6]。建築物をカタチというより素材の視点に拘った背景には、このような彼のキャリアが影響しているものと思われる。製造業の技術系に奉職する身としては、安藤より隈の設計スタイルの方が共感できるかな。どちらが良いというものではないが、娘の目指すアートの世界は、やっぱりまだよくわからんもんで。

隈研吾
隈研吾
出典:Forbes JAPAN
くまのもの 木03

2020東京オリンピックに深く関わった人物や組織が次々とトラブルに巻き込まれている。建築家の安藤忠雄氏、ザハ・ハディド氏、デザイナーの佐野研二郎氏、舛添要一・前都知事、小池百合子・現都知事、竹田恒和・JOC会長、五輪所管省庁である文科省、そして五輪スペシャルアンバサダーのTOKIOまでもが…。これは何かの呪いなのか。隈研吾氏と新国立競技場、そして2年後の本番の地、この東京に何も起こらなければいいがな、となんだか複雑な気持ちも抱きながらギャラリーを出た。

東京駅丸の内口

外は晴天の東京駅丸の内口。2012年に丸の内駅舎がオリジナルに戻った姿をまじまじと見たのは初めてかもしれない。いつも構内スルーか八重洲口だったからね。八重洲口に回って東京駅ラーメンストリートで昼飯食って、ブックセンターへ立ち寄る。建築家への興味の本気度が今いち不明の息子は、建築コーナーへ。私も物色していると、オシャレな装丁の建築絵本が。パラパラめくっていると「これ、うちにあるやつじゃん」と息子。『ル・コルビュジエ―建築家の仕事』が大人向けにモデルチェンジしておった。

NEWYORK PERFECT CHEESE
出典:bloomeestyle.com
PRESS BUTTER SAND
出典:T-Site Lifestyle

女性陣に頼まれていた東京駅土産も無事ゲットして、東京の父子建築探訪#2ミッション・コンプリート。

隈研吾展覧会「くまのもの」は5月6日まで。GW中に是非どうぞ。




[参考・引用]
[1]隈研吾さんの展覧会「くまのもの」 素材追求の軌跡たどる 移動式茶室「浮庵」など70件紹介、永田晶子、毎日新聞、2018年4月11日、
https://mainichi.jp/articles/20180411/dde/014/040/003000c
[2]木造超高層ビルは建つか 住友林業が打ち出す構想とは、加納由希絵、ITmediaビジネスONLiNE、2018年2月14日、
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1802/14/news121.html
[3]次世代の高層ビルは、木でつくられる──世界各国で進む木造高層建築プロジェクト、ELIZABETH STINSON、WIRED、2017年6月24日、
https://wired.jp/2017/06/24/wood-skyscrapers/
[4]世界中で注目される木造建築、Hometech、2015年4月15日、
https://www.hometec-jp.com/2015/04/23/%E4%B8%96%E7%95%8C%E4%B8%AD%E3%81%A7%E6%B3%A8%E7%9B%AE%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%E6%9C%A8%E9%80%A0%E5%BB%BA%E7%AF%89/
[5][第5章]「本当に好きなもの」を作り、売る、100年の価値をデザインする「本物のクリエイト力」をどう磨くか、奥山清行、PHPビジネス新書292、PHP研究所、2013
[6]隈研吾、Wikipedia、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9A%88%E7%A0%94%E5%90%BE
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