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Cadillac Records

歌ウマな黒人歌手キャデラックと続いて(相当間が空いてますが)、ピーンと来た映画好きの方、そう、今日はその両方が楽しめる映画『キャデラック・レコード 音楽でアメリカを変えた人々の物語(原題“Cadillac Records”)』(ダーネル・マーティン・監督、米、2008)をネタにする。クルマ好き、音楽好きのあっしは、何かのきっかけでこの映画のことを知り、ずいぶん前にDVDを買っていたのだが、なぜか再生せずに、そのままキャビネの奥にしまい込んでいた。こんな映画ソフトがまだいっぱいある。『GMとともに』(ダイヤモンド社)を読み始め、先月映画館で警官による黒人差別“殺人”の史実を扱った『デトロイト(原題“Detroit”)』(キャスリン・ビグロー・監督、米、2017)を観てから、この『キャデラック・レコード』に繋がったんだ。



黒人音楽というと、ニュー・オリンズのジャズ、そしてデトロイトのモータウン・サウンズという印象が強いが、この映画の舞台、シカゴはブルースの聖地(同じブルースとクルマの映画『ブルース・ブラザース』もここね)、もっと言えば、その後に続くロックの源流がこのアメリカ中西部最大の都市にある。この映画はそのシカゴを聖地にした立役者、ブルース・インディーズ・レーベル「チェス・レコード(Chess Records)」を立ち上げた、レナード・チェス(Leonard Chess)とポピュラー音楽の歴史を創った看板ミュージシャンたちの物語である。

Leonard & Phill Chess
Leonard(右) & Phill(左) Chess
出典:USA TODAY

登場人物は実在の人たちだし、実話には基づいているようだけど、細かな点では結構創作部分があるようだ。「チェス・レコード」の実際の創設者は、ポーランドからの移民、レナードとフィルのチェス兄弟なんだが[1][2]、弟のフィルは一切登場しない。知らない人がこの映画だけを観ると、レナードだけで設立したように勘違いするだろう。その辺の史実との違いは以下の記事で詳しく検証されているので参照されたい。

検証:Cadillac/Blues Ginza Blog

The great artists of Chess Records
The great artists of Chess Records
出典:udiscovermusic.com

ただ、この映画の魅力は、実話かそうでないかよりも、その渋すぎる音楽とクラシカルなアメ車がテンコ盛りという点に尽きるだろう。良質なミュージカルとして観ればよい。南部からシカゴに移住し、チェス・レコードの前身、アリストクラット・レコード時代から主要アーティストだった「シカゴ・ブルースの父」マディ・ウォーターズ(Muddy Waters)、そのマディのバンドに参加したブルース・ハープの天才、リトル・ウォーター(Little Walter)、マディとともに後の英国ロックに多大な影響を与えたブルース・シンガー、ハウリン・ウルフ(Howlin' Wolf)とロックン・ロールの創始者、チャック・ベリー、(Chuck Berry)。そしてこの映画でビヨンセ(Beyoncé)が演じて話題となった、ブルースの女王(青江三奈じゃないよ)、エタ・ジェイムズ(Etta James)。R&Bのことはあまり詳しくなかったのでハウリン・ウルフやエタ・ジェイムズのことはよく知らなかったんだけど、マディ・ウォーターズについては、英国のロックスター、ポール・ロジャース(Paul Rogers)のトリビュートアルバム《マディー・ウォーター・ブルース》のCDは持っていて、昔は結構ヘビロテで聴いていた。ムチャクチャかっこいいアルバムなのだよ。また、同じ頃ブルースハープに興味を持って、ホーナーのハーモニカ買ったり、松田幸一の《BLUES HARP》って教則VHS(!)買ったりしたんだけどすぐに埃をかぶってしまった。《ベスト・オブ・リトル・ウォルター》もそんな頃買ったCDだ。マディの曲“Rollin' Stone”からバンド名をつけたあの方々も含め、誰もが知るロックやポップスのスーパースターたちが神と崇めた人たちの生き様を描いたドラマだ。







そしてなぜこの映画のタイトルがチェス・レコードでなく“キャデラック”・レコードなのか。それは所属アーティストがヒットを飛ばす度に、チェスが彼らに成功の証としてキャデラックをプレゼントしたからだった。当時、白人と黒人が同じクルマに乗ることすらあり得ない時代、それまで助手席に乗せていたアーティストにレナードは「今日から君のクルマだ」とキーを渡す。しかもキャデラックは当時も今も高級乗用車。特に彼らが活躍した50年代、60年代といえば、GMが世界最大の自動車メーカーとして栄華を誇っていた。そのGMの高級車を持つということは最高のステータスであり、貧困生活から這い上がってきた黒人にとっては琴線をくすぐるご褒美であった訳だ。

1956 Cadillac Sedan DeVille form Cadillac Record
1956 Cadillac Sedan DeVille(『キャデラック・レコード』より)

そしてこの映画は、アメリカ社会に今でも根深く残る複雑な人種差別のルーツとその闇もあぶり出す。黒人奴隷制度の歴史はここではあえて取り上げないけど、白人社会にも陽に陰に縦の階層が存在する。その頂点に位置するのが良く知られたWASP(White,Anglo-Saxon,Protestant)と呼ばれるいわゆる最初に大陸に移住したイギリス系移民の子孫だ。当然、入植してきた順に序列が形成される。もちろん黒人や先住民族はその序列にすら入れてもらえない。イギリス人の後に19世紀頃までオランダ人、スウェーデン人、ドイツ人、フランス人など西欧・北欧からの主にプロテスタント系移民が増える[3]。その後にカソリック系のアイルランド移民が続く。アイルランド系のケネディ元大領領でさえ、その例外ではなかった[4]。またオバマ氏がアフリカン・アメリカン初の大統領となったインパクトが、アメリカ国民にとってどれほどのものだったかは、上記の文脈から明白だろう。その反動とも見て取れるトランプ現大統領とて、かつての敵国ドイツ系だから、その階層社会の闇の深さを経験してきたはずだ。

20世紀になると、南欧・東欧系の移民が急増する。イタリア人やロシア人、それにチェス兄弟のようなポーランド移民である。チェス兄弟もそうだが、ユダヤ系もこの頃に増えた[2][3]。西欧・北欧からの入植者とは「旧移民」「新移民」として区別もされるように、自動車産業も含む五大湖周辺の工業化の隆盛に伴い、低賃金労働者として新移民が欧州から、南部からは黒人たちがこのエリアに大量に流れ込んだ[3][5][6]。チェス兄弟も、白人社会の中では底辺に属する人たちだったので、黒人に共感するところがあったのかもしれない。表向き彼らに対する差別意識はないとレナードは語るが、本当のところはわからない。ミュージシャンたちにも自分たちは結局搾取されている南部プランテーションの使用人と同じではないかと猜疑心が生まれる。とはいえ、レナードは彼らの音楽的才能を見抜いて一攫千金を狙い、彼らもその値千金の“キャデラック”に乗っかった。

1956 Cadillac Coupe DeVille form Cadillac Record
1956 Cadillac Coupe DeVille(『キャデラック・レコード』より)

成功したミュージシャンたちも決して心まで豊かになることはなかった。リトルは酒とドラッグに溺れ、チャックは淫行で身を滅ぼした。エタも自分の出自を呪い続ける。彼女は白人の父と黒人の未婚母との間に生まれた。映画の中では父親は当時名を轟かしたビリヤード・プレイヤー、ミネソタ・ファッツということになっている[7]。レナードは高級レストランを貸し切って、エタとファッツを引き合わせるのだが、父娘関係は認めぬどころか「お前の母親は商売女だ」と捨て台詞を残して去るのだ(二人が会ったのは事実らしいけど、それはレナードの死後、ずっと後の話だ)。酒や麻薬に逃避するエタにレナードは言う。

「悲しみに自分を乗っ取られるな。マディはそれを歌に託して心から追い出す。リトルは常に持ち歩き、酒と麻薬を食わしてる」[8]

1955 Cadillac Eldorado form Cadillac Record
1955 Cadillac Eldorado(『キャデラック・レコード』より)
1955 Cadillac Eldorado
1955 Cadillac Eldorado
出典:MY CLASSIC GARAGE

トランプ大統領が「人種問題は経済問題である」と言ったそうだが[9]、黒人が経済的に豊かになれば人種問題が解決するといった単純な構図じゃない。肌の色の違いだけで差別を受ける、この不条理はカネで解決できるものではなく、人間の本質に関わる永遠の課題だ。前述した『デトロイト』を観るがいい。誰もが持ち得る差別という心の闇が、人間をここまで非道にさせるのかと吐き気を催すはずだ。この映画は黒人差別を助長するという意見[5]もあるけれど、俺の中では逆に白人に対する嫌悪感が彷彿した。それくらいウィル・ポールターの演技は真に迫っていた。

Mr.BATER
好きだった松ちゃんのハマりキャラMr.BATER
黒人メイクはダメで白人メイクで笑いをとるのはええのんか?とも思ったんだが・・・ネイティブ・アメリカンのネタも今ではアウトやな.
出典:フジテレビ

年末恒例のバラエティ番組で芸人が顔を黒く塗ってエディ・マーフィーの顔マネで笑いをとったことが年を越え国際的な大問題となった[10]。あっしもフツーのネタとして観ていたし、批判に対しても最初はスルーだった。どうせ偽善白人とそれに迎合する人たちの戯言だろって。黒塗りでなく、ちょっと変わった金髪と模造鼻のメイキャップのトランプ顔マネで笑いをとってもよかったのだ。それに我々日本人はステレオタイプの「吊り上った細い目、出っ歯」の外観イメージで嘲笑され続けてきたが、「またか」と思うくらいで別に意に介さない。もちろん浜ちゃんに差別の意識は全くなかったと思うし、むしろ誰も気にしていないところを突っ込むことで、寝ていた差別意識を無理に起こしてしまうのではないかと。

「トムとジェリー」
子どもの頃、貪るように観ていた「トムとジェリー」の鉄板ネタも嘲笑の意図があったのかなあ・・・単純におかしくて笑ってたけどな.
出典:「トムとジェリー」の人種差別問題が(今ごろ)話題に

でも私も認識不足だったのは、誰よりもこの問題に厳しく反応したのはアフリカン・アメリカンであり[11]、『キャデラック・レコード』や『デトロイト』を観れば、彼らがいかに差別に対してセンシティブにならざるを得ないかが理解できた。昔東京で働いていたことがあるお袋がしてくれた戦後すぐの体験話を思い出した。有楽町だったかな、母が友人と路上していた会話の中に「クロ」という言葉が出て来たんだ。別に黒人の話をしていた訳ではなかったそうだが、近くにいた進駐軍の黒人兵が怖い顔をして「クロ?ナニハナシテイル」と近寄ってきたらしい。その時は誤解が解けたんだけど、彼らは日本語の「黒」という言葉も知っていたんだ。異国の地でさえ、それくらいナーバスになっていたって逸話。映画の中でマディが言う。

「ブルースっていうのは不条理がテーマなんだ」[8]

肌の色だけでない。宗教や民族の違いも然りだ。我が国においては大昔に同じ日本人社会の中に(政策として)「人に非ず」という階層を作り、その黒歴史の傷跡は今でもアンダーグラウンドで残っている(今の正規/非正規雇用の区別は、用意周到に練られた新しい階級制度づくりのための手段にも思える)。俺もそうなんだが、北部九州で暮らすと、その地理的・歴史的背景から半島や部落との関わり合いを少なからず経験する。しかも両親や祖父母の世代は血の問題に敏感だし、支配者の側として外地にも居留してきているから、あからさまな差別や侮蔑の言葉もいやというほど聞いて育ってきた。でも子どもの時分はそんなことどうでもいいんだ。民族や出自に関係なく友だちは友だち。ところが大人になってくると、比較的ニュートラルのつもりでいた私でさえ、何度も何度も慰安婦や竹島の問題を持ち出されると「おめえらいい加減にせえや」と反感や差別心が頭をもたげる。彼らにしてみれば、慰安婦の事実関係の有無は別にして、かつては従属の関係、つまり白人と黒人のような関係性はあった訳だがら、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、火元は七代祟るメンタリティはそう簡単に消えないんだろうな。


映画「デトロイト」がアカデミー賞から無視された理由
ウィル・ポールターの迫真の演技は最低でも男優賞にノミネートされると思ったのだが.これもまた不条理なのか・・・この動画で歌っているラリー・リード役のアルジー・スミスもいい役者だ.今後注目されると思う.

そういう“ブルース”な問題が未だに無くならない現実を振り返ってみて、平昌五輪での小平奈緒選手と李相花選手の友情や尊敬しあう心を育んだスポーツマンシップとか、この映画の主人公たちが作り上げた音楽やスピリットが、ほんの少しであっても肌の色や民族の垣根をとり外すパワーになるということに気づかされたんだ。若い人たちは、そのスポーツや音楽、その他アートやテクノロジーでも何でもいい、人種や国家、宗教なんかが無意味な世界でどんどん多様な人たちと交流して欲しい。そしてネオ・ジャパニーズが日本や世界を変えてくれるんじゃないかと期待している。

活躍が期待されるアフリカン・ジャパニーズ
アフリカン・ジャパニーズが活躍する21世紀。日本人も肌の色の多様性を受容する時代が来ている。



映画のラストにチェスが乗っていたのは、1960年式Cadillac Eldorado Biarritz。1948年型キャデラックに初めて採用されたテールフィンは、1959年にその頂点を極めると、次第に小さくなり60年代半ばには姿を消した[12]。60年式は音楽の一時代を築いたレナードとチェス・レコードの終焉を象徴したものとして使われたのだろう。ただし、チェス・レコードが経営権を売却し、レナードが死去したのは‘69年[1]。ここにも史実の時間軸との矛盾が見て取れる。

1959 Cadillac Eldorado Biarritz
1959 Cadillac Eldorado Biarritz[12]
1960 Cadillac Eldorado Biarritz
1960 Cadillac Eldorado Biarritz:59年式と比べるとテールフィンが少しシンプルに
出典:American Dream Machines



[参考・引用]
[1]チェス・レコード、Wikipedia、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%82%A7%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%AC%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%89
[2]フィル・チェス、Wikipedia、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%81%E3%82%A7%E3%82%B9
[3]移民(アメリカ)、世界史用語解説 授業と学習のヒント、世界史の窓、
http://www.y-history.net/appendix/wh1203-078.html
[4]ケネディ大統領暗殺50周年の意味するもの、山久瀬洋二ブログ、2013年11月22日、
http://yamakuseyoji.com/2013/11/22/john_f_kennedy/
[5]映画『デトロイト』が「白人視点で黒人を描く」ことの問題点、古谷有希子、Yahooニュース、2018年2月7日、
https://news.yahoo.co.jp/byline/furuyayukiko/20180207-00081338/
[6]町山智浩 映画『デトロイト』を語る、たまむすび、miyearnZZ Labo、2017年9月5日、
https://miyearnzzlabo.com/archives/44959
[7]第3回 ─ エタ・ジェームスの人生と音楽──Etta James rocks the house(3)、キース カフーン、TOWER RECORDS ONLINE、2002年9月19日、
http://tower.jp/article/series/2002/09/19/100043034/100043036
[8]キャデラック・レコード〜ビヨンセも出演した伝説のレーベル“CHESS”の物語、中野充浩、TAP the POP、2017年10月17日、
http://www.tapthepop.net/scene/24765
[9]アメリカ史上最大級のデトロイト暴動、衝撃の映画『デトロイト』を観るべき理由、朝日新聞デジタル、2018年1月26日、
http://www.asahi.com/and_M/articles/SDI2018012418151.html
[10]ガキ使『黒塗り問題』に、松本人志「言いたいことはあるけど、面倒くさいので浜田が悪い」、濵田理央、HUFFPOST、2018年1月14日、
http://www.huffingtonpost.jp/2018/01/13/black-face_a_23332803/
[11]「笑ってはいけない」浜田の黒塗りメイクが物議 黒人作家が語った不安、渡辺一樹、HUFFPOST、2018年1月3日、
http://www.huffingtonpost.jp/2018/01/02/history-of-blackface_a_23321243/
[12]キャデラック エルドラド ビアリッツ、展示車リスト、トヨタ博物館ホームページ、
https://www.toyota.co.jp/Museum/collections/list/data/0004_CadillacEldoradoBiarritz.html
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