タクシーのすきな犬

戌年が明けました。相変わらずたいしてつまらぬマニアックなテーマの、しかも更新頻度も少ないブログにお立ち寄り頂き、心より感謝申し上げます。今年1冊目のクルマノエホンはやはり犬とクルマが主人公の絵本にしたいと思います。タイトルは『タクシーのすきな犬』(スベン・オットー・作、奥田継夫・木村由利子・訳、評論社)という新年に相応しい最後はめでたい絵本です。原題は“Taxa-Hunden Jesper”といってデンマークの絵本になります。デンマーク本の紹介は初めてですね。直訳すればデンマーク語で『タクシー犬、イェスパー』。原著は1977年初版、翻訳版も1979年(昭和54年)に出されたなかなかの時代物です。物語の舞台もかなり昔の設定です。

ある街のタクシー乗り場に1匹のワン公がやって来ました。首輪もないその野犬を、タクシーの運転手さんたちは「イェスパー」と名づけ、首輪も付けてやりました。なんでも屋さんのおじいさんも、籠つきの家をイェスパーに与えました。ネズミ捕りをやってもらう代わりに。ネズミ捕りといえば、『トム&ジェリー』のように猫が定番と思っていましたが、犬もやるんですね。これがまた上手なのです。“仕事”の後はおじいさんとパン屋に寄って8の字パン(プレッツェル?)をいただきます。そのパンを咥えてレストランに行くと、今度はマスターがコーヒーを用意して待っているのです。犬がモーニングにパンとコーヒーだって!犬ってコーヒーも飲むのでしょうか?とにかく街では人気者のイェスパーです。でも彼の一番の楽しみはタクシーに乗ること。タクシーのステップにひょいと乗れば、どこにでも行けてしまうのです。タクシーを乗りかえれば遠距離ドライブまで出来ちゃいます。

タクシーのすきな犬 その3
なんでも屋のおじいさんとイェスパー(『タクシーのすきな犬』より)

タクシーのイラストもカラフルですばらしいでしょ。絵がうまい。どれくらい前の時代のタクシーでしょうか。クラシカルなスタイルから1910年代か20年代頃のクルマと思われます。フロントのラジエータグリルやサイドのフェンダー形状で車種の特定を試みましたが、やはりこの時代の情報に乏しくわかりませんでした。誰か詳しい方、教えてください。

タクシーのすきな犬 その1
車種がわからん(『タクシーのすきな犬』より)

サイドステップにちょこんと座ってタクシーに“乗車”するイェスパーの姿がかわいいんです。正月に同じ横須賀に住む義父を送り迎えする際に気づいたのですが、70代の父にとっては車高の高い愛車エクストレイルからの降車がしづらいようでした。アクティブな父もそれなりに歳をとりました。40年代末には本書のような独立したフェンダーやランプ、窓の部品などはボディに取り込まれ「フラッシュサイド」とか「フラッシュサーフェス」と呼ばれる空力重視のスタイリングに変わったことで[1][2]、イェスパーの“座席”はすっかり無くなってしまいましたが、高齢化が進む現在、ドアを開けてサイドシルを跨いだ先に、もう一段サイドステップがあった方が、SUVなどは乗降しやすいのかもしれません。

さて、ある日のできごとでイェスパーは警察に逮捕されます(犬を逮捕って…逮捕されるほどの事件でもないのですが)。逮捕といっても捨てられてしまうんですね(今なら殺処分ってことでしょうか)。捨てに行かれる途中で、幸か不幸かお百姓さんに引き取られたイェスパー。田舎に連れて行かれると、紐でつながれて犬小屋に閉じ込められてしまいました。今まで“仕事”を全うしていれば自由気ままに暮らせていたイェスパーにとっては監獄同然の生活です。

タクシーのすきな犬 その2
おじいさんのところへ戻れたワン(『タクシーのすきな犬』より)

なんとも街の生活が恋しくなったイェスパーは紐を咬みきり、そこから逃げ出しました。そして道でタクシーを待つことにしました。こんなところにタクシーは来るのか…。やって来ました、おんぼろタクシーが。それが表紙に描かれたタクシーです。タクシーに飛び乗ったイェスパーは無事になんでも屋さんのところへ帰ることができたのです。おじいさんはとても喜んでくれました。それから先の微笑ましいラストまでは、機会があれば是非本書を探して読んでみてください(見つけられるかな?)。

Svend Otto S.
Svend Otto S.
出典:https://www.goodreads.com/author/show/17275.Svend_Otto_S_

この素敵な絵本の作者、スベン・オットー(Svend Otto S.)はデンマークの画家、絵本作家です。Svend Otto S.はアーティスト名で本名はSvend Otto Sørensen。1916年にコペンハーゲンで生まれた彼は、地元で学んだ後、1938年にロンドンのSt. Martins School of Arts and Craftでアートを勉強されたようです。1950年代に絵本作家としてスタートしますが、それまでは本の装丁や週刊誌のイラストを描く仕事していました。伝統的な水彩様式でデッサン力のある落ちついた画風を生かし、『みにくいあひるの子』(ほるぷ出版)や『長くつをはいたねこ』(評論社)など、アンデルセンやグリム兄弟などの童話の挿絵を多く描きます。1978年の国際アンデルセン賞画家賞受賞後はオリジナル絵本を主とし、絵本作家として『ティムとトリーネ』や『クリスマスの絵本』(評論社)等の作品があります[3][4][5]。1996年に亡くなりましたが、生誕100周年となる2016年には、多くの子どもたち、その親や祖父母の三世代が親しんだこの作家の偉業を称える展示会も地元で開催されたようです[6]。

Adler 7/15HP
Adler 7/15HP[7]

本書に登場するクラシックカーの車種は特定できませんでしたが、表紙のクルマ、イェスパーが田舎から街へ戻るのに使ったおんぼろタクシーだけはわかりました。恐らくドイツのアードラー(アドラー) 7/15HP(1912年)です。1912年製で“おんぼろ”と言われたくらいですから、本書の舞台はやはり1920年代でしょうか。あるいは30年代?アードラー社は1886年にフランクフルトで設立されますが、当初は自転車を、その後はオートバイとタイプライターを作っていました。自動車製造に転じたのは1899年で、以後1939年まで40年間車を製造します(オートバイは1957年まで作っていたそうです)。1,768ccの直列4気筒エンジンを搭載、ボディはイギリスのコーチビルダー・モーガン製です。排気量が小さい割に車体は大きかったのであまり走らなかったでしょう。伝声管が運転手席の傍にあり、後席乗客の指示を伝えていました[7]。どうやらタクシーを想定して作られていたようです。クラシックカー満載、ヒストリックカー好きにも必見の一冊です。

2018年元旦
今年も初日から日本晴れ.自宅から見た「未確認飛行物体」はこんな感じで飛んでました.

[参考・引用]
[1]フェンダー(自動車)、Wikipedia、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BC_(%E8%87%AA%E5%8B%95%E8%BB%8A)
[2]フラッシュサーフェス、大須賀和美・編、新版自動車用語辞典<増補二版>、積文館、2009
[3]オットー スベン、20世紀西洋人名事典、日外アソシエーツ、1995、
https://kotobank.jp/word/%E3%82%AA%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BC+%E3%82%B9%E3%83%99%E3%83%B3-1624892
[4]スベン・オットーさんの絵本、くどー★La★ちぇこさんの絵本日記、
http://kudolacieko.net/daisukiehon/s/svendottoehon.html
[5]Svend Otto S.、Wikipedia(スウェーデン)、
https://sv.wikipedia.org/wiki/Svend_Otto_S.
[6]SVEND OTTO S Pictorial Storyteller – Fairytale and Reality.、Rundetaarn.dk、2016年4月30日、rundetaarn.dk
http://www.rundetaarn.dk/en/svend-otto-s-pictorial-storyteller-fairytale-and-reality/
[7]アードラー 7/15HP、折口透・訳、クラシックカー、小学館万有ガイド・シリーズ14、1981
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