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ぶつからないクルマのひみつ

2017年もいよいよラスト1日になってしまったが、今年はトヨタフェラーリのアニバーサリーイヤーだと思っていたら、日産とともにお騒がせ企業となった、年末には燃費データ改竄の話まで出て来ちゃったスバルも100周年だったということに気づいた。厳密に言えば、スバル(旧・富士重工業)が設立されたのは戦後すぐの1953年なんだが、前身である中島飛行機が創立されて今年で1世紀。中島飛行機は日産がかつて吸収合併したプリンス自動車の前身でもある。スバルのルーツがこの中島飛行機であることは、今年最後に紹介する『ぶつからないクルマのひみつ』(橘 悠紀・構成、山口育孝・絵、富士重工業・協力、学研まんがでよくわかるシリーズ123)にも紹介されている。小学5年生の星野翼くんと斉藤愛ちゃんが夏休みの自由研究のテーマに「ぶつからないクルマ」を選んだことから始まる学習漫画。ちょっと毛色は違うが、アラン・グレのトムとヴェロニカ兄妹が学習する絵本「プチ・トムシリーズ」の現代版ってとこかな。戦後GHQにより航空機産業が禁止・解体され、中島飛行機がスバルやプリンス自動車に分かれ、国民大衆車・スバル360が誕生した経緯は「スバル360と百瀬晋六」に解説したので、本書からはもう少しオリジンである中島飛行機のことと、近年のスバルについて勉強してみたい。ちなみに本書は非売品で、学校図書室などに寄贈されている本なので、今回このブログで初めて私が個人的に所有していない、児童図書館から借りたクルマノエホンの紹介となった(早く返さねば…)。

世の中自動運転流行り、最近はとうとう無人運転の領域にまで技術は進んでいる。ほんのちょっと前までは、その自動運転の基盤技術がADAS(Advanced driver- assistance systems:先進運転支援システム)と称して地味に商品化されていた(「日本のロボット・カーたち」)。このADASを世に知らしめ、現在の(部分的)自動運転車が公道を走るコンセンサスを与えるきっかけとなった技術の一つが、今回の真の主人公「アイサイト」の名称で認知されたスバルの運転支援システムだと思う。

「アイサイト」と聞けば、「ぶつからないクルマ」=自動ブレーキのことだと思っている人は多いと思う。でも最新の「アイサイトver.3」(2014年モデル以降搭載)はこの機能だけじゃない。本書でも、スバルのエンジニアとして登場する、愛ちゃんのお父さんが説明してくれているように、ブレーキも含む5つのアイサイト機能が紹介されている。それらの機能を紹介する前に、アイサイトの基盤技術であるステレオカメラについて勉強しておこう。

アイサイトのステレオカメラ
アイサイトのステレオカメラ
出典:https://www.subaru.jp/legacy/outback_xadvance/safety/eyesight.html

自動化技術の肝となるのはやはりセンシング技術。代表的なものとしては、LiDER(レーザーなど光による物体検知・測距法)やミリ波レーダー(電波による物体検知・測距法)、そして最も人間の機能に近いのがカメラである。カメラはまさに人間の目で見ているような画像を処理して、モノの判別や距離の測定を行う。ただ画像認識だけでは物体を誤認識したり、距離や方向が正確に把握できなかったり、人と同じで逆光や夜間、悪天候に弱いこともあって、一般にはカメラと一緒に反射波を利用したLiDERやミリ波レーダーとのフュージョン(併用)をする場合が多い。しかしこのLiDER、ブツがやたらとデカい(Googleカーの屋根でグルグル回っているアレ)といった問題や、ミリ波も短波長なので遠方には届くが、歩行者など電波を吸収するような対象だったり、網目や格子のように透過しやすい物体の場合はロストする可能性もある。以前にミリ波を使っているテスラの衝突事故の紹介をしたが、相手がトレーラーだったので車体の下方を電波がすり抜けた可能性もある。そして何と言っても値段が高い[1][2][3]。そのデメリットをカメラだけで解決しようとしたものがアイサイトに搭載されるステレオカメラだ。

ぶつからないクルマのひみつ その1
立体的に見えるしくみ(『ぶつからないクルマのひみつ』より)

ステレオというぐらいだから、カメラが目のように2つある。ヒトやサルのように目が前方についている動物は立体視が可能だ。右目と左目で視た映像はわずかにずれが生じ、見え方が異なる。これを視差という。近くにあるものは視差(ずれ)が大きく、遠くにあるものは小さい(上図)。この違いによって、対象物を立体的に認知し、距離感も計れるという訳だ。ダ・ヴィンチのモナリザは、この視差の原理を使った史上初の3D画像かもしれないという驚愕ニュースもあったが(「モナ・リザは史上初の3D画像かもしれない」研究者が発表」)、ステレオカメラも全くこれと同じ原理で、対象物の測距が可能となる。まさに人の視覚機能、eye sightだ。ちなみに日産の「プロパイロット」はイスラエルのモバイルアイ社製の単眼カメラ。視差は使えないので距離は推定らしいが(「プロパイロット」参照)、どうやっているのかはわからない。確かに人間は視覚情報だけで安全に運転している訳だから、マシンが人間並みの認知判断能力を持てば、原理的にはカメラだけで行けるかもしれない。ただ、一般道になれば走行環境はより複雑だし、人間の能力を超えるのが機械ということであれば、そっくり人間のマネをする必要はない訳だ。よりセンシングの精度を上げ、安全性能を高めるためにも、今後はLiDERやミリ波とのフュージョンが不可欠だろう。

ぶつからないクルマのひみつ その2
何が役に立つかわからない研究の大切さ(『ぶつからないクルマのひみつ』より)

さてスバルのステレオカメラ開発のスタートは1989年、当初はエンジン内の燃焼を立体的に見る計測方法として利用されていたという。1990年代になって自動車各社は交通事故低減技術の開発が求められた。運輸省(現国土交通省)が先進運転支援技術を搭載したASV(Advanced Safety Vehicle)推進計画を立ち上げたからだ。そこでセンシング技術として既に別な目的で研究されていたステレオカメラ技術が応用される。1999年に世界初のステレオカメラを使った運転支援システムADA(Active Driving Assist)をレガシー・ランカスターに搭載。機能としては、車間維持と車線逸脱防止。ステレオカメラ自体は日立(オートモーティブシステム)製である。その後、2003年にミリ波レーダーとセンサフュージョンされたADAが新型レガシーに搭載されるも、全く注目されなかった。ADASなんて利用制限が多くてどこで使うのだろう?という代物だから、当時の認知度なんてどこのメーカーも似たようなものだったろう。ステレオカメラに拘ったスバルは、2008年にステレオカメラだけのADASシステム「アイサイト」を発表。これが大成功をおさめ、それまで各社が市販化に躊躇していた自動ブレーキ(衝突軽減ブレーキ)を当たり前機能にしたとともに、スバル=アイサイト=安全のブランドイメージが確立したのは周知のとおり(「ちいさなねこ」参照)。

ぶつからないクルマのひみつ その3
アイサイトで人身事故発生率を6割低減!(『ぶつからないクルマのひみつ』より)

本書によれば、アイサイト(2010年からのver.2)搭載により1万台当たりの人身事故発生率が搭載なしの場合よりも61%減少したという。どういう算出方法なのかがわからないが、間違いなく追突事故の防止には貢献しているだろう(だからと言って過信は禁物)。先に戻るが、そのアイサイトは「ぶつからない技術(プリクラッシュブレーキ)」の他に、「ついていく技術(全車速追従機能付クルーズコントロール)」、「はみださない技術(アクティブレーンキープ)」、「飛び出さない技術(AT誤発進&誤後進抑制制御)」、「注意してくれる技術(警報&お知らせ機能)」を含めた5つの機能の総合力によって、上記の人身事故6割低減を実現しているといえる[6]。

中島知久平
中島知久平
出典:Wikipedia

オジサンにとってスバルは水平対向とか4WDのイメージが強かったが、このような技術開発も含めて「もっとも安全性が高い自動車メーカーはスバル」[7][8]といわれるまでになったこの会社のルーツはどこにあるのか。1917年(大正6年)、ライト兄弟が動力付き飛行機を世界で初めて飛ばしてから遅れることわずか14年後、旧帝国海軍の軍人で、後に政治家に転身した中島知久平が、群馬に小さな飛行機会社「飛行機研究所」を設立した。その後急激に成長し、アジア最大にして世界有数の航空機製造会社となった「中島飛行機」の前身である。戦後すぐに「スバル360と百瀬晋六」で紹介したように中島飛行機は12社(本書には15社と書かれている)に解体され、1953年(昭和28年)に東京富士産業、富士工業、富士自動車工業、大宮冨士工業、宇都宮車両の5社が共同出資し、航空機生産会社の富士重工業(現スバル)を設立した。‘55年に富士重工が5社を吸収し、正式に富士重工業となった。スバルの名称の元になったのが、おうし座のすばる星団。すばる星団は肉眼では6個の星の集まりのように見えるので六連星(むつらぼし)とも呼ばれる。スバルのエンブレムの6つの星はこの六連星から来たものであるが、中島飛行機に源流のあるこれら6社の象徴だったんだ。

スバル・エンブレム
設立6社の象徴、スバルエンブレム
ぶつからないクルマのひみつ その4
中島飛行機がルーツのスバルならではのトリビア情報(『ぶつからないクルマのひみつ』より)

飛行機は一度事故が起こると多くの人命を失う。乗員だけでなく場合によっては墜落地点の住民までも巻き込む。もちろん自動車や新幹線(年末年始の新幹線が全線止まりかねないマジヤバのインシデントが起こりましたね)の事故も命に関わるのだけど、軽量化のために材料をギリギリまで絞るため、飛行機の設計にはとても気を使う安全最優先の思想が培われるのだろう(といいながら殺人マシンを作るという矛盾もあるのだが)。航空機メーカーが源流の自動車メーカーといえば、他にはスウェーデンのSAABや零戦の流れを汲む三菱自工が思いつくが、SAABも今はなく、ミツビシもあんな感じだし、まともなのはスバルくらいかと思っていたら日産に続いちゃって…。

法令無視でも安全No.1はスバルって、一体完成車検査をやる意味はあるの?という別の疑問はあるものの(もちろん出荷検査は必要だが、今のルールを守ることに意味があるのかということ)、去年の三菱や東芝に続いて、今年は企業の安全軽視につながる不正・不備のニュースが非常に多かった。日本製品の安全神話が総崩れの2017年。中島知久平ら先人の努力を無駄にしないためにも、また日本経済が沈没しないためにも、製造業に携わる私も含め、少しでも安全に関わる全ての人間が改めて気を引き締める2018年にしたいものだ。大晦日らしいお決まりの締めの言葉ということで。来年もよろしくお願い申し上げます。

スバル101年目
スバル101年目の舵はどう切る?
出典:driver、2017年6月号、八重洲出版

非売品なので、電子書籍化された本書はここで読めます。

[参考・引用]
[1]ADASはカメラ+レーダー+ライダーの三位一体で、村尾麻悠子、EE Times Japan、2016年11月30日、
http://eetimes.jp/ee/articles/1611/30/news032.html
[2]自動運転用センサーで「ライダー」が台風の目に、鶴原吉郎、日経ビジネスONLINE、2016年8月18日、
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/264450/081300041/
[3]3つに大別できる衝突被害回避・軽減自動ブレーキ、鈴木ケンイチ、CarテクノロジーWatch、2013年2月27日、
https://car.watch.impress.co.jp/docs/series/tech/589316.html
[4]アイサイト/富士重工業、野中郁次郎、野中郁次郎の成功の本質 vol.73、Works、No.124、2014、
http://www.works-i.com/pdf/w124-seikou.pdf
[5]ステレオカメラによる運転支援システム、吉永泰之、大沼邦彦ほか、第10回新機械振興賞受賞者業績概要、、機械振興協会ホームページ、
http://www.jspmi.or.jp/system/file/3/1105/n10-1.pdf
[6]アイサイト 主な機能、スバルの総合安全、New SUBARU SAFETY、スバル・ホームページ、
https://www.subaru.jp/safety/eyesight/function/
[7]死にたくなければスバルとマツダに乗るべき?軽はボディがペラペラ?安全な車種リスト、鉾木雄哉、Business Journal、2017年11月17日、
http://biz-journal.jp/2017/11/post_21388.html
[8]スバルが安全性能で上位3社に勝利できた意外な理由、DIAMOND online、2017年6月6日、
http://diamond.jp/articles/-/130527
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