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安藤忠雄展-挑戦-

日曜日、中2の息子と「安藤忠雄展-挑戦-」(18日まで)を国立新美術館に観に行ったんだ。あの有名な『光の教会』を会場にわざわざ作ったことも評判を呼び、前から行ってみたかったのと、建築に少し興味を持っているようなのだが、勉強に全く意欲が湧かないアホ息子に、少しでも刺激を与えようと誘ったワケ。意外とすんなり付いて来た。

槇文彦
水と油の関係?見た目からして安藤と合わなそうな槇文彦.
出典:http://inaxreport.info/no174/feature2.html

安藤忠雄。言わずと知れた現代建築家を代表する一人。現役の建築家の中で、少なくとも日本人建築家の中でもその知名度は抜きん出た存在だろう。建築家一人の作品が、大きな美術館の企画展に取り上げられることはそうそうあることではない。その経歴も、大学出ではなく独学で建築を学んだとか、元プロボクサーだとか、ガンで胆嚢・胆管・十二指腸・膵臓・脾臓の5つの臓器を全摘しても、あれだけエネルギッシュに活動しているとか、とにかくその生き様も常人の域を超えている[1]。彼は建築界のノーベル賞ともいえるプリツカー賞受賞者でもある。プリツカー賞の日本人受賞者は非常に多く、アメリカの8名に次ぐ7名。安藤らが選出した新国立競技場のザハ・ハディド(彼女もまた受賞者)案を批判したのは、同じく同賞受賞者の槇文彦(「新国立競技場案を神宮外苑の歴史的文脈の中で考える」)。彼は東京都庁設計で有名な世界的建築家・丹下健三(これまた受賞者)門下生で、いわゆる建築界のエリート[2]。まあ大学も出ていない放浪の野武士とは、水と油の関係ですわな。建築の世界もいろいろと闇は深いようで。

安藤忠雄の仕事部屋
会場に入るとすぐにこの仕事部屋が再現されておった
出典:http://italiashio.exblog.jp/20467588/

さて、朝10時開館に間に合うよう六本木には着いたが、館内では既に入場待ちの列が出来ていた。さすがに朝一だったのですぐには入れたものの、いきなり安藤建築事務所の仕事場が再現されていて、その迫力に圧倒される。

安藤忠雄展1
最初はこんな感じだから、壁に沿って歩かないと展示物が見えない
出典:https://bijutsutecho.com/news/7695/

最初のコーナーは<原点/住まい>をテーマに、主に個人住宅の作品を紹介。狭い通路の片側にはスケッチ画と模型を机上に、壁には小さなモニタで実際の作品紹介ビデオが流され、普通の絵画展のように遠くからは作品を眺められない。特に息子はチビなので、列に並んで壁伝いに進まないと見られないのだ。この列が動かない。建築学科の学生さんなのか、一つの作品に10分以上立ち止まって鑑賞する人も多く、列が滞留する。その間に脇からも合流してくるので完全に牛歩状態。でも面白い作品が多かったね。

住吉の長屋
安藤を世に知らしめた『住吉の長屋』(日本建築学会賞受賞)
出典:https://forbesjapan.com/articles/detail/14780/1/1/1
見えない家
Invisible House
出典:http://www.impresacev.com/progetti/the-invisible-house/
マンハッタンのペントハウスマンハッタンのペントハウス2
マンハッタンのペントハウス(計画案):部屋が古いビルに突き刺さっている!
出典:http://images.lib.ncsu.edu/luna/servlet/view/search/who/Ando,%20Tadao/when/Contemporary?res=2&q=tadao%20ando&showAll=where&os=50&sort=WORKTITLE,AGENTSORTNAME,IMAGEID,TITLETEXT
コシノジュンコ邸
コシノジュンコ邸
出典:http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/atcl/bldnews/15/091201616/

有名な『住吉の長屋』を始め、『見えない家』とかマンハッタンの古いペントハウスに斜めに突き刺さったような部屋を増築した計画案などなど。芦屋の『小篠(コシノジュンコ)邸』なんて個人宅やない、美術館やで。もちろん安藤といえばコンクリ打ちっ放しの壁面が多く、夏は暑そう。まあ、生活して暮らしやすいかは別として、一般庶民には一生縁のない夢の住まいの数々。

再現された光の教会
再現された『光の教会』

さすがに途中は少しスキップして次のコーナー、話題の『光の教会』を再現した野外展示場へ。十字に差し込む光はやはり幻想的でした。全体を通して感じたことは、この教会だけでなく、どの建築物も光の取り込み方をとても意識しているのと(うちのマンションにも採用されている壁にガラスのブロック素材を使うとか)、『見えない家』のように地下に掘り下げるコンセプトが好きな印象を受けた。

ガラスブロックの家
光の建築家(『ガラスブロックの家』)
出典:http://ofhouses.tumblr.com/post/154276545244/377-tadao-ando-glass-block-house-ishihara

その先は広いスペースに公共建築の作品コーナー。こちらは比較的ゆったりと自由に観賞できたし、なにせパブリックアーキテクチャーなのでスケールも大きく見応えもある。<あるものを生かしてないものをつくる>コーナーに紹介されているように、古い建築物の外観は損ねずに、内部をリビルトする作品も多かった。昔訪れたことのある、東京上野の『国立国会図書館国際子ども図書館』も彼の作品だったことを思い出した(「国際子ども図書館」)。なかでも中国に建設された、あるいは計画中のものに斬新な安藤作品が目立ち、日中の活力の差も感じざるを得ない。彼は今の日本の元気のなさも憂いているのだろう。

中之島児童文学館プロジェクト
中之島児童文学館プロジェクト
出典:http://www.sankei.com/photo/story/news/170919/sty1709190003-n1.html

近代と現代がうまく融合した図書館の内部(3F)
絵本美術館
安藤は子どもたちのための建築に強い思い入れがあるようだ
(上)国際子ども図書館(東京・上野)(下)絵本美術館(いわき)
出典(下):http://www.iwaki-k.ac.jp/publics/index/49/

そんな日本を元気づけるためのプロジェクトとして、大阪・中之島児童文学館の計画[3]はいろんな意味で興味深い。大阪の児童図書館といえば、かつて吹田の万博記念公園内にあった大阪府立国際児童文学館(「本の探偵」)が、当時の橋下府知事による財政再建策の中で2009年度に閉館、東大阪市の府立中央図書館に統合された。この統廃合にあたっては、蔵書を寄贈していた児童文学者らの反対もあり、寄贈書の返却を求めて裁判沙汰にもなっている[4][5]。中之島にはこれまた廃止の噂も出た府立中之島図書館(重要文化財)もある[6]。維新府政によって廃止になった児童文学館が、今度は吉村維新市政によって中之島に復活となるか。府立中央図書館にある児童文学館との併設は、それこそ無駄だと思う。寄付で賄うとはいえ議会の承認は必要だし、またまた大阪の図書文化をかき回すことになるけど、安藤さん大丈夫かいな。山中先生まで巻き込んじゃって。

安藤忠雄展2
公共建築を展示するスペース.模型製作は大変だったみたい.
出典:http://jp.amu-zen.com/nact-tadao-ando-exhibition/
中之島プロジェクトⅡ
中之島プロジェクトⅡ"(計画案)
安藤の手にかかれば中之島公会堂(大阪市中央公会堂)もこうなる 
出典:https://ex.artnavi-bt.com/exhibition/664

直島プロジェクト
一度行ってみたい香川県・直島のアートプロジェクトへの関わりも紹介

新国立競技場のコンペでも、安藤氏は審査委員長に担ぎ出されドタバタ劇の主役になった。彼に悪意はないのだろうけど、どうも周りのことをよく考えずに動いちゃう建築家のようだ。夢を実現するのも結構ではあるが、リビルトのお得意な安藤さんならネオ・バロック様式の中之島図書館をうまく活用する手もあるだろうし、彼は大阪府・市の特別顧問も務められている訳だから[3]、両者の現状もよくよく考慮されて、未来の子どもたちに、そして府民・市民に本当に役立つように単なる図書館(建築物)ではない新しい図書館“システム”を構築することに皆で「挑戦」して欲しい。

首相を輩出しているにも関わらず、神奈川県でも珍しい横須賀の児童図書館は老朽化が甚だしい。横須賀出身で最近勢いのある建築家いないかな。横須賀美術館を設計した山本理顕さんでもいいから、ここにも素敵な児童図書館を作って欲しい。佐藤さとるを生んだこの横須賀に絵本作家や児童文学作家にたくさん定住してもらって、彼らが日替わりで図書館館長なんてね。

企画展図録
企画展図録と既に持っていたサイン入り本
帰りに何か買おうと思ったんだが建築本って高いんだよね.持ってるし.
企画展図録2
ところがこの図録、サインだけじゃない、全て安藤の手描きのイラストが付いている(どんだけ描いとんねん).種類は4種類で選択可.しかもこれでお値段1980円って即お買い上げ.赤の装丁もクリスマスっぽくておしゃれ.やっぱり『光の教会』になっちゃうね.

横道に逸れちゃったけど、かつて私は安藤氏の講演を聞きに行ったことがある。著書にサインもいただいた。怪しげな東京大改造論をぶちまけた、ちょっと素人には付いていけないぶっ飛んだアイデアだった記憶があるけれど、彼はおカネ(財政)には無頓着なんだろうね。ザハ・ハディド案も予算のこと何も考えずに決定したのだろうし、『光の教会』の再現も、美術館の「増築」扱いになるようで、彼はこれを「挑戦」と呼ぶのだろうが、スタッフにとっては新たに建築許可を取るなど面倒くさいことこの上ない[1]。実際の建築費よりかかったらしいしね。五臓なくともクライアント泣かせのハチャメチャ行動力は健在だ。

その建築スタイルに賛否両論ある安藤だし、いろいろと誤解も受けやすい人だが、その類稀な行動力は尊敬に値するだろう。新しく行動を起こさない限り何も生まれない、何も変わらない。当然失敗や批判を受けるリスクも高まるが、何かに挑戦し成功したときの喜びは大きい。だから彼は人は、特に若い人には恐れず「挑戦」し続けよと訴えている。

最近俺も建築に再び興味が湧いてきて、建築の絵本も気になってきて・・・。また家族に叱られる。

エネルギーみなぎる作品の数々を鑑賞するとこちらもエネルギーを消耗した。二人とも久しぶりの六本木で軽く遅めの昼飯を済ませ、帰りの電車の中では父子爆睡。その肝心の愚息、多少は何かを掴んだのか?建築への興味は増したようだが、相変わらず遊び呆けておる。彼の人生への「挑戦」はまだまだ遠い・・・。



[参考・引用]
[1]5つの臓器を全摘した建築家・安藤忠雄「生涯、青春していたい」、山内宏泰、文春オンライン、2017年10月13日、
http://bunshun.jp/articles/-/4495
[2]建築のノーベル賞、プリツカー賞ってなに?日本人は誰が受賞?【architecture】、ミライノシテン、2017年2月12日、
http://www.mirainoshitenclassic.com/2017/02/architecture.html
[3]安藤忠雄氏、大阪・中之島に児童図書施設 市に寄付提案、家族層呼び込む、日本経済新聞、2017年9月19日、
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO21250280Z10C17A9AM1000/
[4]大阪府立国際児童文学館、Wikipedia、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E9%98%AA%E5%BA%9C%E7%AB%8B%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E5%85%90%E7%AB%A5%E6%96%87%E5%AD%A6%E9%A4%A8
[5]取材1 大阪府立国際児童文学館廃止により我々は何を失うのか—大阪の歴史と文化論の立場から、特集 橋下徹氏が やりたかったこと すでにやったこと やろうとしていること、おおさかの街69号、
http://www.mmjp.or.jp/machi/69tokushu1.html
[6]安藤忠雄氏提案 中之島児童図書館について、関西建築保存活用サミット kanken-summit.net、2017年10月6日、
http://kanken-summit.net/?p=895
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