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しょうぼうしょは大いそがし

しょうぼうしょは大いそがし

今日は『しょうぼうしょは大いそがし(原題“Bei Der Feuerehe Wird Der Kaffee Kalt”(ハネス・ヒュットナー・作、ゲルハルト・ラール・絵、たかはしふみこ・訳、徳間書店)というクルマノエホンを取り上げる。クルマというよりは、消防士が主人公の旧東ドイツの児童書だ(初版は1969年)。この本を取り上げたのは、以前ネットニュースを読んでいて、現役のレスキュー隊員のインストラクターであり消防団員の方の次のツイートが話題になっているという記事(「日本人の救急隊への対応は最低クラス!? 世界各国の対応を比較したツイートに考えさせられる・・・」)に目が留まったことと、先月の福岡・大分豪雨災害で消防隊員が命がけで救出活動に奔走していた様子をテレビのニュースで見たからだ。他の数ある消防車絵本でもよかったのだけど、挿絵がちょっと素敵だったのでね。この時期、日本では火災よりもむしろ自然災害で消防士に命を守られることが多い。今日の絵本の紹介が、消防車ではなく消防士さんのことをちょっとでも考えるきっかけになれば。

ある消防団員のツイート
ある消防団員のツイート
出典:http://fundo.jp/137621

海外では消防士は尊敬や憧れの職業だとよく紹介される。32の職業に対する世界27か国の調査によれば、世界で最も信頼されている職業は消防士だそうだ。ちなみに最低は政治家[1]。いずこも同じである。9・11の時にも多くのアメリカの消防士が己の命と引き換えに任務を全うした。アメリカやフランスでは消防士は子どもたちのヒーローなのだ[2][3]。戦争や凶悪犯罪の少ない日本では、最も殉職のリスクが高い職業の一つが消防士だろう。でも普段、我々はどれだけ彼らの仕事に敬意を払っているだろうか。そんなことを考えさせられる記事だった。ツイートは極端な例なのかもしれないが、風邪くらいで119番する人も多いと聞くから、自分たちの仕事にもっと関心をもって欲しいという意図が含まれたつぶやきだったんじゃないだろうか。

訓練のためにパナメーラを破壊するドイツ消防士
訓練のためにポルシェ・パナメーラを破壊するドイツ消防士.Oh mein Gott!
出典:http://creative311.com/?p=11393

保育園の子どもたちの声がうるさいとか、電車内のベビーカーが邪魔などとクレームをする人の話も、根っこは同じように思える。もちろんこの世の中は子どもを持つ家庭ばかりじゃないし、子どものいる家庭に極端に配慮せよというつもりもない。しかし誰もがかつては赤ちゃんや“騒がしい”子どもだったのだし、周りに迷惑をかけながらも、近隣や社会の「子どもはそんなもんだ」という理解の下で育てられてきたことを大人は忘れてしまっている。同じように、日々我々が当たり前のように享受している安心や安全も、消防士とか警察官らプロフェッショナルがいるお陰だろう。こうして安心してネットに繋がっている裏では、24時間サイバー攻撃と戦っている職業の方々もおられるのだ。ヒアリの研究者もしょっちゅう刺されていると言うから、全く頭が下がるばかりである。我々の税金で働いているのだから当然とか、憲法違反とか言われる職業もあるけれども、じゃあ本当に命の危険が迫った時に、クレームを言う人は自分の力だけであなたやあなたの家族を守れるのですか?と。

自分が子どもだったこと、毎日普通に暮らせることがあまりに当たり前なことすぎて、世の中持ちつ持たれつで成り立っていることを忘れちゃあいないか。私も気の短い性格なので反面教師としたいが、もう少しお互い謙虚に相手の仕事の苦労を慮った行動がとれないものだろうか。ホント、自分のことに精一杯、心にゆとりのないカリカリした日本社会になってしまった・・・。

さて本題。前出の調査によれば、ドイツでも最も信頼の高い職業は消防士。消防士に高い信頼を寄せる人の割合は96%。日本は89%とワーストの韓国の次に低い[1]。原題“Bei Der Feuerehe Wird Der Kaffee Kalt”は直訳すると「しょうぼうしょではコーヒーが冷める」である。意訳すれば「しょうぼうしょでは温かいコーヒーすら飲めやしない」、それくらい大忙しだということだ。だから、冒頭のツイートは出動車内で缶コーヒー一服すらもさせてくれないのかという嘆きである。

しょうぼうしょは大いそがし その1

仕事が一息ついた消防署の2階には7人の消防士がいる。ちょうどおやつの時間ということで、パン(おやつ?)が準備される。皆が長い木のテーブルを囲んで座るとワッサー隊長が、
「さて、みんな、コーヒーカップはあるかい?全員カップを上げて、1、2、3、4、5、6、7!よし!では、コーヒーをついでくれたまえ!」
と一番若手のマイヤーくんがみんなにコーヒーを注ぐ。
「さて、諸君、みんなパンはあるかい?」と隊長が尋ねる。
「全員パンを上げて!1、2、3、4、5、6・・・マイヤーくん、君のパンは、どうしたんだい?」
「たべました、隊長!」
と掴みはOK。
で、隊長のパンを一つ分け、改めて「いただきます!」と言おうとしたその瞬間、緊急出動の電話が鳴る。

しょうぼうしょは大いそがし その2

それから、火を消すだけではなく、溺れた人を助けたり、倒れた木をどかしたり・・・。休みなく続く消防士たちの仕事は多岐にわたる。それらの活動が一息ついて消防署に戻ると、再び前述の場面がデジャブのように。そして「いただき・・・」が繰り返される。この児童書づくりの王道、繰り返しの法則はストーリーにリズム感を与え、聴き手や読み手の子どもたちの心を惹きつけるだろう。

しょうぼうしょは大いそがし その3
旧ドイツ軍の払い下げ?(『しょうぼうしょは大いそがし』より)

この本の帯には「消防士さんてかっこいい!」とある。その命を懸けた仕事ぶりも勿論そうなのだが、ドイツの子どもたちはその制服のかっこよさにも憧れるのだろうか。挿絵で描かれた制服は、ヘルメットがシュタールヘルム型だし、ちょっと戦前のドイツ軍のようで[4][5]、強烈なナチスアレルギーのあるドイツでは、児童書の挿絵として問題にならなかったのかといらぬ心配をしてしまったが、まあ旧東ドイツでは普通の制服だったのだろうね。

Hannes Hüttner
Hannes Hüttner
出典:https://www.deutsche-digitale-bibliothek.de/item/TIQGVP4R55QYIZT7CZKHJV4YPAMNDPOE

作者のハネス・ヒュットナー(Hannes Hüttner)は、1932年、旧東ドイツのツヴィカウに生まれる。ジャーナリズムと経済、後に医学を学び、研究者となる。ちいさい小屋の形をした宇宙船がチーズ星を探して旅をする『空の青』(未訳)、コンピュータをめぐる短編集『魔法使いウィズ』(未訳)など、科学や機械も織り込んだ、ちょっとナンセンスな楽しい絵本を30冊以上発表している。アレックス・ヴェディング児童文学賞を受賞。2014年ベルリンで没[6]。

Gerhard Lahr
Gerhard Lahr
出典:https://pirckheimer.blogspot.jp/2012/12/buchillustrator-gerhard-lahr-gestorben.html

挿絵のゲルハルト・ラール(Gerhard Lahr)は1938年、旧東ドイツ、フォークトラント地方のライヒェンベルクに生まれる。旧東ドイツのマグデブルクの工芸専門学校でグラフィックデザインを学ぶ。1963年からベルリンに住み、イラストレーター、画家として活動。2012年ベルリンで没[7]。

訳者の高橋文子さんは横浜生まれ。上智大学とミュンヒェン大学でドイツ文学を学ぶ。ゲーテ・インスティトゥート東京および上智大学非常勤講師。翻訳家。訳書に『クレーの詩』(平凡社、2004)、タンクレート・ドルスト『私、フォイアーバッハ』(論創社、2006)、テオドール・シュトルム『白馬の騎手』(論創社、2007)など[8]。巻末の高橋さんの解説によると、ゲルハルト・ラールの挿絵のどこかに「幸運を呼ぶ煙突掃除屋さん」が描かれている。ドイツではder Schornsteinfeger(煙突掃除屋)を見ると縁起がよいのだとか[9]。知ってました?

今朝、朝食摂りながら情報番組を観ていたら、海辺で見つけたイケメン黒マッチョ(十二分に日焼けしたムキムキマン)で一番多い職業は?を調べた特集をやっていた。朝っぱらから興味もない映像を見せつけられた訳だが、結果は消防士。見た目ちょっとチャラそうな人が多くて、「消防士への敬意」が少し揺らいだ僕w。

消防士は黒マッチョ?!
消防士のみなさん、頑張って…!
出典:https://matome.naver.jp/odai/2150335614452317301?page=2



[参考・引用]
[1]Worldwide ranking: trust in professions、GfK Vereinホームページ、2016年3月、
http://www.gfk-verein.org/en/compact/focustopics/worldwide-ranking-trust-professions
[2]子供たちに夢を与える!アメリカの消防士さん (Fire Fighter) と子供たちのふれあい。、ちいこママ、アメリカ生活+子育てガイド、
http://americanlife4u.com/kosodate.firefighter.php
[3]消防士は男の子たちの憧れの職業、中村江里子、パリからあなたへ、朝日新聞デジタル、2014年9月30日、
http://www.asahi.com/and_M/living/SDI2014092964611.html
[4]なかなかハイカラなドイツ消防官制服上下、Chicago Blog、2016年7月6日、
http://regimentals.jugem.jp/?eid=2921
[5]制服(ナチス親衛隊)、Wikiwand、
http://www.wikiwand.com/ja/%E5%88%B6%E6%9C%8D_(%E3%83%8A%E3%83%81%E3%82%B9%E8%A6%AA%E8%A1%9B%E9%9A%8A)
[6]Hannes Hüttner、Wikipedia、
https://de.wikipedia.org/wiki/Hannes_H%C3%BCttner
[7]Gerhard Lahr、Wikipedia、
https://de.wikipedia.org/wiki/Gerhard_Lahr
[8]高橋文子、みすず書房ホームページ、
http://www.msz.co.jp/book/author/15659.html
[9]ドイツで信じられているびっくりな迷信3つ(後編) 、Julia、Ecomドイツ語ネット、2014年10月24日、
http://ja.myecom.net/german/blog/2014/102884/
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