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2014-09-29 23:41 | カテゴリ:bookshelves/本棚
生きる

日曜の午後、ふらっと京急の下り電車に乗る。降りたのは津久井浜駅。改札を出て三浦海岸へ向かって歩いて1分。そこに目的地の絵本屋「うみべのえほんやツバメ号」はある。昨年の3月にオープンした横須賀唯一の絵本専門店。クルマの絵本蒐集家(クルマ絵本の紹介がまた滞っている)としては要チェックと開店したての頃に一度お邪魔したことがあった。その後2階にギャラリーも出来て、すっかり地元の名物店になったようだ。今回そのギャラリーで岡本よしろうさんの絵本原画展が開催されていることを地域情報誌で知り、久々に訪問したという訳である。


岡本よしろう
岡本よしろう[1]

谷川俊太郎さんの詩『生きる』に岡本よしろうさんが絵を描き、「生きる」(谷川俊太郎・詩、岡本よしろう・絵、福音館書店・月刊「たくさんのふしぎ」通巻342号)という絵本になった。この『生きる』という詩を私は知らなかった。そもそも文学に疎いので当然といえば当然である。岡本氏が編集者から与えられた課題は『詩のイメージブックではなく、言葉の意味と付かず離れずであること』だったらしい。絵本を作るって難しいね。

生きているということ
いま生きているということ

すべての美しいものに出会うということ
そしてかくされた悪を注意深くこばむこと

「生きる」その2
生きているということ(『生きる』より)

課題に対する画家・岡本よしろうさんの答えは、ごく普通の家族のある夏の日の一日、毎日当たり前のように流れる時間(とき)を描写することだった。突然の火山噴火が登山者と家族を引き裂く、土石流が平穏な家庭を一瞬のうちに押し流す、昨日まで元気だった我が娘が明日の未来を奪われる、何の前触れもなく百名以上の乗客の命が大空に散る。ここ数か月、連日のように非日常的な生死のドラマを見聞きすると、食事の準備をしている妻、受験勉強をしている娘、レゴで遊んでいる息子、普段と変わりなく家族が生きているこの瞬間がとても大事に思えてくる。そんなことを考えながら、原画を鑑賞させてもらった。

「生きる」その1
横須賀上町商店街がモデル(『生きる』より)

お宮参りなのであろう、家族とおじいちゃん、おばあちゃんが写った写真の絵があった。でも他の絵にはおばあちゃんは登場しない。ふと数年前に亡くなった母のことを思い出した。その母が眠る山口県ご出身の岡本さんは現在横須賀に居を構えられていて、これらの原画も横須賀の風景をモチーフにしているそうだ。上の絵は上町商店街をイメージされたとか。そんな背景もあって、自分の中にすっと入ってくる作品だった。

マリオネットのマリーちゃん
マリオネットのマリーちゃん(「うみべのえほんやツバメ号」Facebookより)

会場には岡本さんご本人と奥様も一緒におられて、彼らと少し会話を交わしていると岡本氏が突然「人形のダンスを観て行かれませんか?」と。何事かと思うと、彼が自作したマリオネットのマリーちゃんを彼の作曲した曲に乗せて踊らせるのだという。マリオネットと作曲は趣味なのだそうだ。飄々とパフォーマンスを続ける面白い人である。食えない頃のものだと彼の昔の作品も原画ではないが紹介されていた。スペインの街角を描いた風景画。結構好みでした。岡本よしろうさんの絵本原画展、明日9月30日まで。最後の一日だけど興味のある方は是非。

岡本義朗1
初期の岡本義朗作品「グラシア通り」[2]
岡本義朗2 岡本義朗3
初期の岡本義朗作品(色鉛筆画)

この原画展も階下の絵本屋も人の出入りが絶えない。大人気の絵本屋さんになっている。書棚を舐めまわしていると、なんと「誰も知らない小さな国」の初版本、若菜珪版が置いてあるではないか。ここは古書も販売されているがこれは売り物ではない。オーナーに伺うと寄贈されたのだそうだ。私の駄文も読んでくれていて、復刻された私家版も購入されていた。人口減に悩む横須賀市は現在結婚・子育て世代から「選ばれるまち」を目指し、さまざまな子育て・教育環境の充実に取り組んでいる。日本を代表する児童文学者、佐藤さとるを生んだ街であり、ガリバー旅行記のモデルになっているかもしれない横須賀。こんな素敵な絵本屋が地域に定着し、ユニークな絵本作家が横須賀を拠点に活動を行っている。ならば横須賀は絵本や児童文学で町おこしを図ってはどうだろうか。空き家の目立つ谷戸の土地や住宅を作家やアーティストに安く提供する。迷路のような谷戸のアトリエは創造力を掻き立てると思うんだけど。児童図書館にも佐藤さとる資料館を設けるとかね(ここ安針塚に建てるのだ)。

うみべのえほんやツバメ号
うみべのえほんやツバメ号

毎日往復4時間のクルマ通勤。途中睡魔に襲われたが、今日も事故なく無事に家路に着いた。生きていることを実感する瞬間だ。何よりも他人様の生きていることへの妨げにならなかったことに感謝。



[参考・引用]
[1]岡本よしろうさん原画展 現代詩『生きる』絵本で表現、タウンニュース横須賀版、2014年9月5日、
http://www.townnews.co.jp/0501/2014/09/05/250388.html
[2]岡本義朗(96卒) 「グラシア通り」、山口支部新人賞山口ムサビ、新人賞情報、2007年4月1日、武蔵野美術大学校友会、
http://www.msb-net.jp/news/rookie/2007/04/01/719
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